経営お役立ちコラム
会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第1回】

一昔前まで、M&Aというと大企業が大企業を買収するような大型の案件であることがほとんどでした。例えば、大手銀行が国内の銀行を買収したり、大手通信会社が海外の携帯電話会社を買収したりと、当時の新聞やメディアで話題となったことが記憶にあるのではないかと思います。

これらは「自社の規模を拡大するため」、「新たな顧客を増やすため」といったように、買収する側の企業目線で語られることが多かったのですが、現在、M&Aは、会社を引き継ぐための手段として、つまり「売る側」の視点として注目されています。

これは、経営者の高齢化・後継者不足により事業の引継が円滑にできないという問題がクローズアップされてきていることにも起因しています。そこで、今回は『会社引き継ぎの1つの手法としてのM&A』という切り口で、全3回のコラムでお届けします。

 

1.M&Aとは

M&Aとは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、2つ以上の会社が1つの会社にまとまったり(吸収、合併)、ある会社がほかの会社を買ったり(買収)することを指します。M&Aの世間のイメージとして強いのは「買収」ではないでしょうか。しかし、実際にはM&Aにはたくさんの種類・方法があり、広い意味では業務提携などの「提携」もそのなかに含まれることがあります。

では、実際に会社引き継ぎの場面では、どんな種類のM&Aが活用されているのでしょうか。実は、ほとんどの場合、「株式譲渡」と「事業譲渡」のどちらかの方法に限られます。

次から「株式譲渡」、「事業譲渡」それぞれについて、会社を引き継ぐ必要のある売り手側の視点で見ていきます。なお、記載したメリット・デメリットはどちらも「少しでも高く譲渡したい」という立場で事業を引き継ぐ会社の場合です。メリット・デメリットは立場や「何の条件を最優先にするか(従業員雇用、譲渡時期など)」で変わります。

 

2.株式譲渡とは

自社の株式を、会社または個人に売却することで、会社の所有権、経営権を譲渡することを株式譲渡と言います。売却して得たお金は「株主」のものとなります(多くの場合、経営者)。

【メリット】

・複雑な手続きが不要(取締役会等で承認後、株主名簿を書き換えるだけ)

・現金化までが早い(最短で3、4か月)

・負債を含めて売却することができる

・会社名も含め、会社はそのまま存続する(所有者が変わるだけ)

・従業員の雇用が確保できる

 

【デメリット】

・株式の譲渡所得に対して税金が発生する

・残業代の未払いなどがあると、売却金額が低くなる

・負債などの債務も譲渡するため、事業譲渡に比べて売却金額が低くなる傾向がある

・会社の先行きを不安視して従業員が退職してしまうリスクがある

 

3.事業譲渡とは

事業譲渡とは社内の一部または全部の事業を売却することです。売却の対象となるものは、売却する事業に属する資産に限られます。第三者が自社の一部を購入することとなりますので、売却して得たお金は「会社」のものとなります。

事業譲渡を選択する場合、対象の従業員には個別で同意を得ること、自社がもっている許認可は引き継げないこと、株式譲渡に比べて時間がかかる、などいくつかの制約はありますが、売却金額が株式譲渡に比べて高くなりやすい、売却先の選択肢が広がるなどのメリットもある方法です。

【メリット】

・売却する事業や対象を限定することができる

・優良資産を売却し、債権者への返済に充てることができる

・株式譲渡に比べて高い価格で売却できる可能性が高い

 

【デメリット】

・会社の借金は残る(借入金があれば)

・従業員や債権者に個別で同意を得る必要がある

・許認可は引き継げないので、許認可を強みに交渉はできない

・売却したお金が会社に入るので、個人の財産に振り替えるのが煩雑で税金もかかる

 

4.会社を引き継ぐために

今回は、株式譲渡、事業譲渡について解説しました。M&Aを活用して会社を引き継ぐ場合、第三者に評価してもらえる(買ってもらえる)ことが大前提となります。会社を評価してもらうためには、事業の磨き上げが不可欠です。会社の引き継ぎを考えることをきっかけに、一度自社の事業について見直してみるのはいかがでしょうか。


第2回:会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第2回】

第3回:会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第3回】


<<執筆者>>

 

 

 

 

 

清野 洋司(せいのようじ)

北海道出身 2006年 明治大学卒業 ロックスターを目指しフリーター生活 2014年 専門書出版社に勤務 2019年 中小企業診断士登録 2020年 きづき経営コンサルティング設立、現在に至る。出版社勤務時に社長直属の部下として培った経験を活かし、支援を行っている。

 

 

 

 

 

原口 靖史(はらぐち やすし)

2020年 診断士登録。1996年早稲田大学卒業後、映像業界で情報システム、経営企画、広報を担当。長年に渡り経営者の近くで提案を重ね、経営者から相談を受けてきた経験を活かし、診断士としての支援活動を展開中。

21/05/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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