経営お役立ちコラム
会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第3回】

『会社引き継ぎの一つの手法としてのM&A』という切り口でお届けする全3回シリーズ企画の最終回は、「事業承継にまつわる国の施策について」です。

第1回コラムでは「株式譲渡」と「事業譲渡」という譲渡手法のご紹介、第2回はM&Aにおける「売り手」と「買い手」それぞれのメリットと考慮すべきリスクをご説明しました。

過去2回をお読みいただいた事業者様は「M&Aの手法は分かった。事業を承継して守りたい(もしくは効率的に拡大したい)というのは当社も同じ。だけど、やっぱりM&Aをやる会社は一部の特殊な会社でしょ?」と思われたかもしれません。

そんな皆様、経済産業省が2021年4月30日に公開した「中小M&A推進計画」をご存じでしょうか?国は、事業者様のM&Aを後押ししようと考えているのです。M&Aは国が推奨する選択肢となり、遠い存在ではなくなりました。

中小M&A推進計画
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shigenshuyaku/2021/210428shigenshuyaku02.pdf

 

1.「中小M&A推進計画」の意義と潜在的な対象事業者

経済産業省はこの計画を策定した目的を、「経営者の高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響に対応し、中小企業の貴重な経営資源を将来につないでいくため」としており、「中小M&Aの意義と対象」を次の通りに説明しています。

・中小M&Aの意義
「経営資源の散逸の回避」、「生産性向上等の実現」、「リスクやコストを抑えた創業」3つの観点から中小M&Aを推進。

・中小M&Aの潜在的な対象事業者
中小M&Aは右肩上がりに増えて足下では年間3~4千件実施。潜在的な譲渡側は約60万者と推計(成長志向型 8.4万者、事業承継型 30.6万者、経営資源引継ぎ型 18.7万者)。

 

今でも年間3~4千件もの実績がありますが、国が、潜在的な譲渡側を60万者もあると見込んでいるという計画になります。対象の60万者を仮に年間4千件ペースで実施したら150年間もかかりますが、本計画は今後5年間に中小M&Aの取組みを推進するとしています。目標件数を明らかにはしていないものの、相当力を入れて取り組んでいくものと考えられます。

また「中小M&Aの意義」が図に表されていますが、そのポイントは、①「経営資源の散逸の回避」のために『経営者のEXITにおける選択肢』を増やし、②「生産性向上等の実現」のため、新たな経営資源を活用した規模拡大を可能とし、③「リスクやコストを抑えた創業」のため、既に創業時のリスクを乗り越えた段階の経営資源を活用して開業しやすくする、という3点です。①は事業譲渡側、②と③は事業譲受側であり、相互補完関係にあると言えます。中小M&Aは事業を譲る側、引き継ぐ側双方にメリットがあるということです。

 


出典:中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ ~中小M&A推進計画~

 

2.具体的な中小M&Aの支援施策

このように国は中小企業の貴重な経営資源を将来につないでいくことを重視しています。ここまでは今後5年間で強化される国の施策でしたが、今すぐ利用できる既存の制度として、「事業承継税制」や「事業承継・引継ぎ補助金」があります。

特に事業承継・引継ぎ補助金は要件を満たすことで承継・引継ぎに係る一部費用や、M&Aアドバイザーの費用が補助されるなどの、金銭面でのメリットがあります。

 

・事業承継税制

「事業承継税制」は、事業の後継者が非上場会社の株式などを先代の経営者等から贈与・相続された際に、贈与税や相続税の納税が猶予あるいは免除される制度です。本制度を活用する際には、「経営承継円滑化法」による都道府県知事の認定を受ける必要があります。
この制度、贈与税や相続税の猶予や減免は魅力的ですが、制度自体や手続きが複雑で非常に利用しづらいという意見も多く耳に入ります。事業承継が決定しており積極的に活用していきたい場合は、本税制に詳しい税理士等の専門家の協力を得て活用を検討する必要があると考えられます。

 

・事業承継・引継ぎ補助金

事業承継やM&Aに挑戦しようという中小事業者に対して、補助金による支援を行う制度です。補助金なので使い道が限定されますが、「M&Aに興味は出てきたが資金面で不安だ」という事業者様の背中を押してくれる制度かもしれません。

事業承継・引継ぎ補助金は、次の2つの類型に分かれます。

 

類型① 経営革新

事業承継やM&A(事業再編・事業統合等、経営資源を引き継いで行う創業を含む)を契機とした事業再構築、設備投資、販路開拓等への挑戦に要する費用を補助します。
【対象経費:設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用 等】

 

類型② 専門家活用

M&Aによる経営資源の引継ぎを支援するため、M&Aに係る専門家等の活用費用を補助します。
【対象経費:M&A支援業者に支払う手数料、デューデリジェンスにかかる専門家費用 等】

 

令和3年度の場合、どちらも二次公募は7/13~8/13(18時)までです。目的に合わせて活用を検討する必要があります。

 

3.おわりに

全3回の連載では、「M&A」が経営者にとって経営判断の選択肢を増やす手段であることをお伝えしてきました。しかし、もちろんM&Aが唯一万能の手段とは限りません。今回取り上げた「中小M&A推進計画」では、中小M&Aにおいて売り手、買い手の事業者様がトラブルに巻き込まれることのないよう、M&Aを支援する側も含めたルールの整備を図るとしています。特に、売り手側の事業者様にとってM&Aはとても大きな決断です。ご検討の際は、士業等専門家や信頼できる支援機関にご相談下さい。

私どもは、東京都診断士協会 城南支部公認の団体であり、全員が協会に所属する中小企業診断士です。M&Aはあくまでツールの一つと捉え、企業全体の方針策定や効果的な戦略を構築する専門家集団として、皆様のお役に立ちたいと願っております。

 

東京都診断士協会 城南支部公認 スモールM&A研究会
http://small-ma-jonan.cocotte.jp/

 


第1回:会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第1回】

第2回:会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第2回】


<<執筆者>>

 

 

 

 

 

清野 洋司(せいのようじ)

北海道出身 2006年 明治大学卒業 ロックスターを目指しフリーター生活 2014年 専門書出版社に勤務 2019年 中小企業診断士登録 2020年 きづき経営コンサルティング設立、現在に至る。出版社勤務時に社長直属の部下として培った経験を活かし、支援を行っている。

 

 

 

 

 

 

原口 靖史(はらぐち やすし)

2020年 診断士登録。1996年早稲田大学卒業後、映像業界で情報システム、経営企画、広報を担当。長年に渡り経営者の近くで提案を重ね、経営者から相談を受けてきた経験を活かし、診断士としての支援活動を展開中。

21/07/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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