『会社引き継ぎの一つの手法としてのM&A』という切り口でお届けする全3回シリーズ企画の第2回は、「売り手・買い手、それぞれの立場にとってのM&A」という内容でお届けします。
前回の第1回コラムでは、自社の株式を会社や個人に売却することで会社の所有権や経営権を譲渡する「株式譲渡」、社内の一部または全部の事業自体を売却する「事業譲渡」といった譲渡スキームについて解説しました。そして今回は、M&Aという手法を通して「売り手」と「買い手」それぞれがどんなメリットを享受できるか、また、考えるべきリスクはどういったものがあるかについて、まとめました。
1.売り手にとってのM&A
売り手になるきっかけですが、大きく2つに分けられます。
・会社や事業は継続したいけど、後継者がいない
・現在の会社や事業を売却して、資金調達したい
後者については、得られた資金によって、新たに事業を展開する、負債を返還する、新たな生活基盤を手にする、など資金用途は様々かと思います。
これらきっかけによって、メリットとされる事項は変わってきますが、一般的には以下がメリットとされています。
<M&Aによる売り手のメリット>
・会社や事業が継続できる
・資金調達ができる
・従業員の雇用が維持できる
・取引先との取引継続が図れる
・廃業コストが抑えられる
・個人保証や負債返還義務等から解放される
一方で、これらメリットを享受できるかどうかは、しっかりとしたリスク対策が必要になってきます。例えば、契約を締結し、会社や事業を売却した後、契約通りの金額が期限までに振り込まれるか、といったものです。
<M&Aで売り手が最低限考慮すべき観点>
・買い手の支払い能力があるか
・契約書の記載方法が意図したものと齟齬がないか
特に後者は、一般的な契約フォーマットに縛られず、売り手固有の契約として弁護士にチェックしてもらう等、リスクヘッジを行うべきでしょう。
2.買い手にとってのM&A
次に、買い手側から見たM&Aです。買い手となりうるきっかけは、大きく分けると次の2つです。
・新たに会社を立ち上げたい
・会社/事業規模の拡大を図りたい
前者は、会社を立ち上げる手法としてM&Aを活用する考え方です。自身で一から立ち上げるより、既に立ち上がっている事業基盤をM&Aにより取得した方が、効率的に会社を立ち上げられる場合があります。後者は、自社と同じ業種・業態の会社を取り込んで事業を拡大する、異業種の会社を取り込んで多角的に事業を展開することによりリスク分散を図る等を、目的とした場合です。
売り手のケースと同様、会社や事業を取得しようと考えたきっかけや目的により、メリットとなる事項は変わります。ここでは、一般的なメリットを記載します。
<M&Aによる買い手のメリット>
・効率的に起業できる
・会社や事業の規模を効率的に拡大できる
・ノウハウやモノなどの経営資源を迅速に取得できる
・既存の事業と取得した事業との間で相乗効果(シナジー効果)が得られる
そして、売り手のケースと同様に、これらを得るにはリスク対策が必要です。
<M&Aで買い手が最低限考慮すべき観点>
・買収価格が適切か(粉飾や簿外債務(未払いの残業代等)などないか)
・数字に表れないトラブルがないか(口コミなどの悪評、環境汚染、住民とのトラブル等)
・契約書の記載方法が意図したものと齟齬がないか
・狙った権利を継続できるか(許認可など)
買収価格が高額の場合は、財務や法務デューデリジェンス(DD、対象となる企業の価値や買収時や買収後に起こりうるリスクについて行う調査)を実施することが通例です。DDはM&A仲介者やアドバイザーなどの直接的な関係者が行うべきではありません。第三者の手により客観的に行われる必要があります。一方で、買収価格が低額の場合、DDにかけるコストを拠出すること自体が効率的ではありません。どちらにせよ、買収後にメリットが得られるかどうかを含めた買収の実行は、最終的には買い手自身の独立した判断により行われるべきです。
3.会社を引き継ぐために
今回は、会社を引き継ぐ手段としてM&Aを選択する場合、売り手・買い手にはどういうメリットがあるか、また考慮すべきリスクはどういうものがあるかについて解説しました。
次回は、連載の最終回として、事業承継に係る国の施策(事業承継・引継ぎ補助金や事業承継税制など)についてお届けします。
第1回:会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第1回】>
第3回:会社をどう引き継げばよいか ~M&Aという手法から考える~【第3回】
<<執筆者>>
清野 洋司(せいのようじ)
北海道出身 2006年 明治大学卒業 ロックスターを目指しフリーター生活 2014年 専門書出版社に勤務 2019年 中小企業診断士登録 2020年 きづき経営コンサルティング設立、現在に至る。出版社勤務時に社長直属の部下として培った経験を活かし、支援を行っている。
原口 靖史(はらぐち やすし)
2020年 診断士登録。1996年早稲田大学卒業後、映像業界で情報システム、経営企画、広報を担当。長年に渡り経営者の近くで提案を重ね、経営者から相談を受けてきた経験を活かし、診断士としての支援活動を展開中。