経営お役立ちコラム
海外子会社へのガバナンスのポイント(第2回) 現地スタッフの労務管理

◆はじめに

海外子会社へのガバナンスのポイントとして前回のコラムでは「本社と現地経営陣とのコミュニケーション」について述べた。今回は「現地スタッフの労務管理」について筆者の経験を中心に述べることとしたい。

◆現地スタッフの労務管理

現地の法制、行政、労務、商慣習などが日本とは異なっている海外子会社を経営するにあたって、それらを見知っている現地スタッフをいかに活用できるかが大きなポイントとなる。日本人派遣者は就労ビザ枠が限られていることに加え、人件費は現地スタッフに比べ高く、派遣できる人数には限度がある。そのため海外子会社の経営を安定させるには、現地スタッフを育成し、戦力化させることが必須である。

まずは、現地スタッフと海外子会社の経営理念・経営方針を共有することから始める。それが、彼等にとって自分のすべきことが明確になり、仕事へのモチベーションを高める基本となる。
議案によっては日本本社とのオンライン定例会議にも参加してもらい、発言の機会を設けることも、当人のやる気を高めることにつながる。
人事考課の際には、極力多くの現地スタッフとの面談を行い、人事評価、課題、会社への要望などについて意見交換を行うことも必要である。

◆労務問題の原因

労務問題が発生した場合、往々にして原因は現地スタッフではなく、日本からの派遣者であることが多い。現地のトップになると日本本社の管理が行き届かなくなり、誰も文句は言わないことをいいことにワンマンに振る舞い、現地スタッフとのトラブルに発展するケースも多い。

筆者が支援した会社のA国子会社で、現地スタッフの病欠者が多く発生したことがあった。同子会社では現地スタッフの15%~20%が病欠者という状況であったが、現地の日本人トップからは、「この国では元々病欠者が多く、この程度の病欠者数は普通である」との説明を受けていた。
筆者としては、病欠者が多い理由を現地特有な事情で説明されることに違和感を覚え、現地出張の折に本社の取引銀行の現地支店に寄り、病欠者の実態について尋ねてみたところ、同支店より①確かにA国では日本に比べ病欠者は多いが、②平均して病欠率6%~8%程度である、③同支店では人事労務を専門とするコンサルタント会社を雇い、病欠率を1%~2%に抑えている、との回答があった。
それを受けて、現地スタッフと面談し、病欠者が多い原因を調査したところ、日本人トップがワンマンであったことに加え、現地スタッフ全員に中間管理職を経由せず直接仕事の指示をしていたため、それにストレスを感じた社員が病欠者となっていたことが判明した。そのため日本人トップには帰国してもらい、トップと現地スタッフとの間に現地人の中間管理職を入れる組織に変更したところ、病欠者減につながった。

◆本社の対応

上記の教訓は、「現地特有の事情だからやむを得ない」との海外子会社からの説明を鵜呑みにするのではなく、おかしいと思ったらその裏を取ってみることが必要であるということだ。
そのためにも、日頃から現地スタッフとのコミュニケーションを深めることに加え、ジェトロ、日本人商工会議所や取引銀行などとつながりを持ち、必要な時に情報を取れるようにしておくことが望ましい。


第1回:海外子会社へのガバナンスのポイント(第1回) 本社と現地経営陣とのコミュニケーション


<<執筆者>>

 

 

 

 
岡田 光史

2005年中小企業診断士登録
大学卒業後に都市銀行(現在のメガバンク)に入行、銀行では融資、外国為替、コーポレートファイナンス、海外支店にて経営管理を経験。その後教育機関(大学)にて海外法人の運営管理、海外からの事業撤退、海外法人への業務監査を経験。

23/02/28 21:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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