経営お役立ちコラム
海外子会社へのガバナンスのポイント(第1回) 本社と現地経営陣とのコミュニケーション

◆ はじめに

1980年代の円高、90年代の経済のグローバル化、2000年以降の少子高齢化による国内市場の伸び悩みなどを受け、海外子会社を設立し、事業展開することで活路を見出している企業が増加している。しかしながら、人材に余裕のない中小企業にとって、海外子会社の経営は、その国の法制、行政、労務、商慣習などが日本とは異なっていることもあり、極めて難しいといえる。そうした状況で海外子会社を上手く管理していくには、日本本社の踏み込んだ支援によりガバナンス体制を構築していくことが必要である。特に財務や人事などについては、現地任せにせず、本社できちんとルールを決め、確実にフォローすることが大切である。

筆者は、本社の海外子会社管理の責任者として多くの傘下子会社の運営管理を支援する立場にあったものであり、その経験を開示することで海外子会社の経営に役に立てて頂ければ幸いである。今回のコラムを含め3回の連載を予定している。初回は現地とのコミュニケーションについて述べる。

◆ 本社と現地経営陣とのコミュニケーション

人材に余裕がある大企業と異なり、中小企業の場合は日本からの派遣社員の数が限られていることに加え、派遣された社員は仕入、販売、製造、人事労務、経理などの全ての部門の管理を行うことが多く、日々の業務に忙殺されているのが実態である。
本社としては、そういった実態を的確に把握し、必要な経営資源を迅速に投入することが必要であるが、そのためには現地とのコミュニケーションがポイントとなる。

筆者が支援した会社では、海外子会社の業務について、本社経営陣の一部しか関与しておらず、本社内には「海外事業は別もの」との意識が蔓延していた。そのため現地よりの報告が徹底されておらず、本社経営陣は、海外子会社の製造・販売については理解していたものの、経理・人事労務・コンプライアンスなどの経営管理上の潜在的なリスクまで十分に把握していない状況であった。

こういった状況を打開するために最初に取り組んだことは、現地からの定期的な報告のルール化を図ったことである。現地経営陣に、月1回定期的に本社あて経営レポートの提出を依頼した。内容としては、①製造・販売、②人事労務、③経理・財務、④その他報告事項から成り、月間試算表も添付してもらった。
本社には、海外事業部、製造部、営業部に加え、総務部、人事部、経理部などにも海外子会社の担当窓口を設けてもらった。それにより上記レポートが関係各部にも回付されることになり、「海外事業は別もの」との意識を払拭させるように努めた。

更に取り組んだことは、現地経営陣との週1回のオンライン会議の定例化である。本社各部、現地経営陣に加え、必要に応じて現地スタッフにも参加させた。これにより、海外子会社では本社支援を実感できるようになるとの効果があった。

こういった地道な取り組みにより、海外子会社のブラックボックス化はかなり解消されるようになった。


<<執筆者>>

 

 

 

 
岡田 光史

2005年中小企業診断士登録
大学卒業後に都市銀行(現在のメガバンク)に入行、銀行では融資、外国為替、コーポレートファイナンス、海外支店にて経営管理を経験。その後教育機関(大学)にて海外法人の運営管理、海外からの事業撤退、海外法人への業務監査を経験。

23/01/31 21:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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