経営お役立ちコラム
人的資本経営への転換(第2回)

新型コロナウイルス感染症への対応の中、アフターコロナに向けて経営にも分水嶺(物事の方向性が決まる分かれ目)があると思います。これは、どの方向に向かっていくのか、社運をかけた意思決定になると言っても過言ではありません。

第1回では、その方向性について、経営の舵取りを人的資本経営に大きく転換すべきであると提言をしました。

第2回では、人的資本経営を実践するために必要な人づくり(人財開発)について、具体的な方法についてお話をします。

第1回と同様に、人的資本経営を意識した時は、人財と表記し、一般的な言葉として使う人材とは対照的に使い分けています。

 

(1)人材マネジメントの課題

人財開発は、人材マネジメントの中核に位置づけられます。初めに、人材マネジメントの課題についてお話をします。

持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会の報告書(人材版伊藤レポート)によると、人材マネジメントの課題として「人事戦略が経営戦略と紐づいていない」という回答が一番多い(約3割を超える)調査データを紹介しています。

この調査では、人事部門の課長担当以上の役職者を対象にしています。人材に関することはすべて人事部門任せになっており経営が関与していないのか、或いは関与していても経営の方針が伝わっていない可能性もあります。いずれにしても、人事部門と経営部門の間に壁があり、かみ合っていないことがわかります。

例えば、経営は新規事業開拓を目指しているのに、減点主義的な人事考課をしていれば、リスクをもって新規事業にチャレンジする人財は育ちません。

人的資本経営では、人間が持つ能力を資本として捉え、価値を創出する元手に投資をして、そのリターンとして持続的な企業価値の向上につなげていきます。人事戦略が経営戦略と連動していなければ、十分な投資効果は期待できません。

まず、自分の会社の経営戦略と人事戦略が連動しているかセルフチェックしてください。連動というのは、経営戦略を実現するための重要な要素として人事戦略を戦略的に位置づけるという意味合いです。

会社によっては、経営と人事のかけ橋の役割をするCHRO(チーフ・ヒューマンリソース・オフィサー:最高人事・人材責任者)を配置するケースもあります。

 

(2)社長の人財に対する思いの言語化(可視化)

会社が求める人財像や人財要件が明文化されていないと、どのような方向で人財育成をしてよいのか人事部門はわかりません。社長自らが人財に対する思い、人財像を語ることが重要です。

それを人財要件として要素分解するのが人事の役割です。人財要件とは、能力や態度を示したものです。例えば、コミュニケーション力、問題解決力、育成力、協働力、ストレス耐性力、共感力、忍耐力、主体性、責任性、積極性(チャレンジ精神)などです。

最後は、洗い出した人財要件を人事考課項目に落とし込むことで、経営戦略と人事戦略が、求める人財像を軸に連動したことになります。

このように人的資本経営では、人事部門は、人を管理する人事部門から戦略人事(経営の目的、経営戦略の実現を支援する人事)部門へと位置づけられます。

 

(3)人づくり(人財開発)

会社が求める人財像になるための人財要件が明確になっていますので、人づくり(人財開発)のコンセプトは、ぶれることはありません。効果的な人的投資が可能になります。

本コラムでは、キャリア自律を目指す人づくり(人財開発)を中心にお話をします。

従来のキャリア形成は、会社が社員のキャリアを支配し、社員は会社に依存することで、終身雇用や年功序列型賃金が担保されていました。これは、高度成長期であるがゆえに成し得たことです。

低成長(成熟化)時代では、会社と社員の関係は、上下の力関係(タテの関係)から対等の関係(ヨコの関係)に変わり、相互に支援と貢献をしながら社員自らがキャリアを形成しなければなりません。これが、自分のキャリアは自分で切り拓くキャリア自律です。

社員は仕事を通じて成長しますので(仕事の報酬は成長)、会社の支援(役割)は、社員に学びと成長の機会を提供することです。その結果、会社と社員が共に成長を実現できる好循環を生み出します。

社員は、成長を通じてエンゲージメント(自発的貢献意欲)が上がります。キャリア自律も可能になります。

組織は、組織が活性化されて、変化への柔軟な対応やイノベーティブな組織風土(組織文化)も醸成されます。キャリア自律した社員が増加すれば、組織も自ずから自律型組織へと変貌していきます。

 

学びと成長機会の場とは、例えば、新規事業のプロジェクトを社内公募制で提供する、社員がチャレンジしたい仕事に費やす時間を通常の業務時間内に設定する(注)、働き方改革で、ワーケーション(観光地等で働きながら休暇をとる過ごし方)やテレワークを認めるなどがあります。要は、社員に良質な経験の場を提供することです。

一方、社員は、良質な経験の振り返りをして、そこで得られた教訓や気づきを得ます。それを次の経験に活かすことで成長実感を得ることができます。

 

(注) 例えば、スリーエム社には「15%ルール」があります。社員に勤務時間の15%を自分自身のプロジェクトに使うように奨励しています。やってみたい仕事に集中すると、創造性が磨かれます。この試みで、ポストイットが誕生したと言われています。

 


第1回:人的資本経営への転換(第1回)


<<執筆者>>

長田 邦博(おさだ くにひろ)

1994年 診断士登録。大学卒業後、大手食品メーカに入社。営業、商品企画、経営企画、商品開発、人事、経理、監査の業務に従事し、同子会社に出向し経営にも携わる。

定年退職後は、組織人事戦略コンサルタントとして独立し、グロナビを設立する。

https://gronavi.net/

著書: もし、アドラーが「しゅうかつ」したら (2021年 幻冬舎)

⇒第2回のコラムの内容は、第2章の習活、第3章の充活を参照してください。

https://www.amazon.co.jp/dp/4344933192/

21/09/30 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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