経営お役立ちコラム
金利の動向から景気を読み解く(第1回) 金利はどのようにして動くのか

♦はじめに

今年4月、経済学者の植田和男氏が日本銀行(以下日銀)の新総裁に就任しました。長い間、超低金利政策が採られてきた日銀の金融政策にも今後何らかの変更があり、わが国の金利や為替の水準、企業の設備投資等に影響を与える可能性があります。

そこで、今回から3回の連載で「金利の動向から景気を読み解く」をテーマに、金利変動のメカニズム、金利が日本の景気や物価、為替などにどう影響してきたかについて、分かりやすく示したいと思います。
将来の金利変動を予測することは極めて困難ですが、金利の動向について理解することで、中小企業の皆様が少しでも将来の予測可能性を高め、事業機会の獲得や脅威の回避につながれば幸いです。(本コラムの記載はすべて執筆者個人に属し、その所属する組織の公式見解を示すものではありません。投資等の判断は自己責任でお願いします。)

♦金利は物価や景気の「コントローラー」

市場経済では、家計や企業は、モノやサービスの価格(物価)を手がかりに消費や投資を行うかどうかを決めていますが、物価が急に大きく変動すると、家計や企業がこうした判断を適切に行うことが難しくなります。

例えば、物価が上りすぎると(インフレ)、景気が過熱します。その上がり方が急な場合には、家計は苦しくなりますし、企業も原油や原材料価格などのコストアップで業績が悪化します。

逆に物価が下がっても(デフレ)、消費者が値下げを期待して買控えすれば、企業の売上は伸び悩み、設備投資を抑えたり賃金を抑制したりして社会活動が停滞し、景気の悪化を招きます。

このように、「物価の安定」は経済活動や国民生活の基盤です。日銀は、法律で「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことを理念とし、さまざまな金融市場調節によって物価の安定に努めています。後述の「金利操作」はその中心であり、「金利は物価や景気のコントローラー」と言えます。

♦金利は景気に先行して動くことが多い

日銀は、金利を上げ下げすることで物価の安定を図り、景気に対して影響を及ぼします。例えば、金利を引き下げると、企業が設備投資を行ったり、家計が住宅を購入したりする際の借入金利が低下し、需要を刺激します。これにより、雇用が生まれ、経済活動が活発化します。反対に、金利の引き上げは、需要を減らし、経済活動や雇用を抑制する方向に働きます(注1)。
逆に言えば、金利の動向を意識することで、景気の先行きを見通すことも可能です。

こちらは米国の例ですが、金利の上昇後に世界全体の景気が後退する動きが多いことが分かります(図表1)。

図表1 米国金利の動向と世界の景気変動との関係

(出典)角川総一(2022)『図解 身近な「金利」と「お金」のことが3時間でわかる本』明日香出版社、P.37

♦日本では「予想物価上昇率」が低水準で定着し、超低金利が続いてきた

日本ではバブル崩壊後のデフレ経済を回復するため、相次いで利下げを行ってきましたが、その結果、1990年代後半には短期金利がほぼゼロ%まで低下し、追加的に利下げして経済を刺激することが出来なくなりました。このため、日銀は1999年、「デフレ懸念の払拭が展望できるまで」ゼロ金利を続ける、という「約束」をすることで景気を刺激しようとしました。これを「時間軸政策(フォワードガイダンス)」といい、当時日銀の審議委員であった植田氏が提唱したとされています(注2)。

その後も日銀は、設備投資や住宅ローンの貸出金利の指標となる長期国債(10年国債など)をはじめ、様々な資産を市中から大規模に買入れることで金利の押し下げを図り、景気を刺激して2%の「物価安定の目標」が実現するよう努めてきました。

それでも長い間、日本では物価上昇が見られず、結果として超低金利が続きました。この理由として、バブル崩壊以降、賃金や物価の上昇率が低下する中で、わが国ではこれらが上がらないことを前提とした考え方や慣行が定着したこと、つまり、長い間、予想物価上昇率が低水準で定着してきたことが指摘されています(注1)。この辺りについて、次回に詳しく述べたいと思います。

♦参考文献等
(注1)日銀植田総裁講演「金融政策の基本的な考え方と経済・物価情勢の今後の展望」(2023年5月19日内外情勢調査会):日本銀行HP
(注2)日銀金融政策決定会合議事録(1999年4月9日開催):日本銀行HP


<<執筆者>>

大須賀 健一

2022年中小企業診断士登録
霞が関の行政官庁で現在まで20年以上勤務し、主に財政面から、産業政策、中小企業政策や国の債務管理政策などに関わる。この間、民間投資ファンドや在外公館(サンフランシスコ総領事館)などにも勤務。マクロ・ミクロ両方の目線で中小企業支援に関わりたいと考えている。米国駐在をきっかけに、カリフォルニアワインを楽しんでいる。

23/08/31 21:00 | カテゴリー:,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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