経営お役立ちコラム
白書から読み解く中小企業の過去・現在・未来

■はじめに
我が国における中小企業は、全企業数の約99.7%、従業員数は全体の約70%、付加価値額は全体の約56%を占める地域経済や雇用を支える極めて重要な存在です。本稿では、中小企業白書を手がかりに、2015年以降の動向を中心に、中小企業の過去・現在・未来を概観します。

■ 2015年以降の動向からみる過去
2015年以降、中小企業白書では「人手不足の深刻化」「後継者難」「地域経済の低迷」など、複合的な経営課題に直面してきました。特に経営者の高齢化が進展する中、2023年時点で後継者不在率は54.5%となっており、事業承継の停滞が大きな社会課題として浮上しました。中には後継者が見つからずに黒字でもやむなく廃業する事業者も多く、地域経済の担い手の喪失が懸念されています。

また、2020年1月から始まった新型コロナウイルス感染症の感染拡大は同年4月に緊急事態宣言が発出され、外出自粛や休業・時短営業要請が出された事で飲食業や宿泊業を中心に中小企業・小規模企業の売上が大きく減少する事となりました。そのため売上高の減少など深刻な影響を受けた中小企業・小規模企業に対しては様々な支援策が実施されました。

他方、中小企業白書には、経営資源が制約される中においても、ITの導入や経営革新を通じて生産性向上を図ろうとする先進的な事例が多数紹介されています。例えば、クラウド会計ソフトや業務支援アプリを活用した業務効率化、IoT機器を導入して製造現場の見える化を進めた製造業の事例、さらにはオンライン販売やSNSマーケティングを取り入れて新たな販路開拓に成功した小売業者などが挙げられます。こうした取組は、自社の課題を的確に捉えた上で、限られた人的・資金的資源を有効活用しながら持続可能な経営基盤を構築しようとする姿勢の表れであり、他の中小企業にとっても有益なベンチマークとなり得るものです。

■ 現在の中小企業が抱える課題と変化
2024年版中小企業白書で現在の中小企業は、原材料費・エネルギー価格の高騰や人手不足、価格転嫁の困難といった複合的な課題に直面しています。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い民間金融機関における実質無利子・無担保融資(以下、「民間ゼロゼロ融資」という。)を積極的に進めた結果、中小企業の資金繰り環境は改善し、倒産件数は抑制されました。しかし、100%保証付融資が中心となっている中小企業は増加しており、こうした企業への支援の強化は喫緊の課題となっております。一方で、デジタル技術の活用や業務改善による生産性向上に取り組む動きも広がっており、コロナ禍で加速した非対面型のビジネス手法が定着しつつあります。加えて、環境対応や地域社会との共生といった視点も重視され始めており、経営の在り方に質的な変化が見られます。

■ 将来展望:人への投資と省力化
2024年版中小企業白書で最も優先度が高い経営課題は人材の確保となっており、人手不足は深刻化しております。しかし、生産年齢人口の減少が進む中で、労働力を補ってきた女性や高齢者(65歳~69歳)は2019年から2023年にかけては女性は横ばい、高齢者は減少傾向で、人材の供給制約に直面しております。そのような状況において既存社員の継続的な人材育成による能力向上、働き方改善による定着率向上や副業・兼業、外部のシニア人材、外国人労働者など施策を総動員して質、量ともに必要な人材を多面的に確保していく必要があります。また、人手に依存しないオペレーションの構築や設備投資による自動化による業務効率化を図っていく事が必要となります。政策面でも人手不足に悩む中小企業等を支援する「中小企業省力化投資補助金」であり、省力化投資を後押ししております。
中小企業庁 省力化補助金 特設ページ:https://shoryokuka.smrj.go.jp

■ おわりに
中小企業白書は、通常5月に閣議決定され、その後に中小企業庁のHPに全文が公開されます。近年は経済産業省のYouTubeチャンネルを通じて動画でも概要説明を視聴する事が可能です。過去10年を振り返ると、多くの困難に直面しながらも、挑戦を続けてきた企業事例が具体的に紹介されています。白書を手に取り、次の一歩を考える機会としていただければ幸いです。


<参考文献>
中小企業白書 2015年版~2024年版:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html
経済産業省のYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/user/metichannel


<執筆者>

井野 裕章
2024年5月中小企業診断士登録。大学卒業後、外国為替仲介業、外資系生命保険会社、生損保代理店経営(法人)、プロジェクト単位で新規開拓を請け負う営業代行業を経て、長年に渡りSIerで様々なプロジェクトを経験。社会人になってから一貫して第一線の営業として経験を積んでおり、金融、ITでの豊富なビジネス経験が強み。

25/04/30 18:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

このページの先頭へ戻る