今回は3回の連載の最終回です。「経営者の意思決定のポイント」
として私なりに重要と感じている3つのポイントの内のひとつで
ある「投資判断の考え方」について述べさせていただきます。
経営者は常に判断することが必要です。その中でも投資という事業
を成長させる一方、キャッシュアウトさせるリスクも伴う判断を行う
必要があります。このテーマは、投資というリスクを伴う意思決定
を経営者が行う上でポイントを理解していただく内容となっています。
このコラムを読んで皆様のひとつの参考又は中小企業診断士として
活用できる一助となれば幸せです。
今回投資判断というテーマを取り上げた理由について説明します。
私が勤めてきた会社は1部上場企業で規模も大きく、1案件の投資額
も億単位で行われてきました。そのため、投資案件に対しては多面的に
分析した上で投資額に応じた決裁者の決裁によって投資実施が
行われることになり、投資の実効性について多くの者からのチェック
が入ることになります。しかし、中小企業の多くはオーナー企業であり、
オーナーの意向によって投資が行われることがほとんどだと思います。
また、投資額は小さいもののその投資によって資金繰りの問題を抱える
など企業存続に大きく影響を与えることになります。そこで、中小企業
に適した投資判断をどのように考えれば良いかを整理します。
企業にとっての大きな投資に設備投資があります。設備投資にも
大きく2種類に分けることができます。ひとつは、保守・保全投資、
もう一つは、施策投資です。
保守・保全投資は、設備の老朽化などによって発生する故障等を
修繕し、現状を回復するための投資であり、現状を維持するために
は必要な投資です。この投資は発生する都度、実施する必要がある
ため経営的な投資判断はほとんど必要となりません。
しかし、施策投資は、省力化や生産性の向上、新製品製造など
売上向上や費用削減などの利益に結び付く投資となります。
この投資は保守・保全投資と違い、実施するにあたっては重大な
経営的な投資判断が必要となります。
大企業においては、施策投資実施に当たり正味現在価値法(NP
V)、内部収益率法(IRR)、回収期間法、投資収益率(ROI)
等の経済性計算を活用し、総合的に、科学的に判断しています。
しかし、これらの経済性計算は、計算が複雑で、計算できる人材の
確保を必要とし、中小企業にとっては非常にハードルの高い内容と
なっています。
では、中小企業はこのような経済性計算を行わず、オーナーの
属人的な判断に任せれば良いかというとそれは違います。
当然、中小企業においても客観的な投資判断を行うことは必要です。
中小企業が設備投資を実施するにあたっては、設備投資の目的を
明確にすることです。
保守・保全投資は、定期的に発生する案件です。よって、これに
ついては毎年の投資額を明確にし、予算化することが重要です。
施策投資は、その主な目的が売上向上や費用削減であります。
よって、これについては投資目的、例えば売上をいくら向上させるや、
費用をいくら削減するなど、を明確にすることが重要です。
そして、その目的が投資に対して十分なリターンが得られるかを
判断材料にすることです。
売上向上のために投資を行うとき、売上が現状よりもいくら向上
し、投資回収を何年で見るかということです。また、投資資金を
借入で実施する場合は、借入返済期間が投資回収期間と同じと考える
と、売上増加分から投資によって発生する費用(用役費など)増加
分を差し引いた額が借入の返済額と借入利息分以上となる必要と
なります。例えば、1,000万円の設備投資を実施するにあたって
全額を10年返済(1年毎元金均等返済)、年利4%の借入で実施する
こととした場合、投資によって売上増加分から投資によって発生
する費用増加分を差し引いた額が10年間に1,220万円以上になる
必要があります。
このように中小企業が投資するにあたっては、NPVやIRR
などの複雑な計算方法を使わず、投資のために調達した資金を何年で
回収できることを基準に判断することが重要です。また、回収期間
についても返済期間や市場の盛衰栄枯などのリミットが明確である
ならば、それを基準にすることで判断を行うことが必要となります。
もうひとつ難しい内容として、売上をどのように見積もれば良い
かという点です。費用削減については、設備を導入することで
リードタイムが削減できるや、作業工数を削減できるなど削減額の
見積もりは比較的容易にできます。しかし、売上についてはこのような
方法で見積もることはできません。これについては市場動向などの
外部環境や顧客対応による販売予測などのマーケティング精度を高
めることが重要です。
以上のように投資とは、投入した額以上のリターンを得ることが
目的になります。難しい経済性計算に捉われることなく、目的達成
のための投資判断のアドバイスができる診断士となれるように精進
していきたいと思います。
原辺 正守