一般社団法人　東京都中小企業診断士協会　城南支部

「『若僧』中小企業経営者の奮闘記」の２回目では、従業員のメ
ンタルヘルス問題を取り上げます。私は医師ではありませんので、
医学的な知識や見解を申し上げることはできませんが、私の実体験
にもとづいて「うつ病」に苦しむ従業員との接し方や中小企業経営
者としての取り組みについてご紹介します。

１．「うつ病」の患者数は12年間で3.4倍に！
～厚生労働省の患者調査から～

厚生労働省の「患者調査」（３年ごとに全国の医療施設に対して実
施）によると、平成８年に43.3万人だった気分（感情）障害（うつ
病、躁うつ病、気分変調症など）の総患者数が、平成20年には104.1
万人（男性：38.6万人、女性：65.5万人）と12年間で2.4倍に増
加しました。このうち「うつ病」と診断された患者は、平成8年に
20.7万人でしたが、平成20年になると70.4万人となり、3.4倍に
急増しています。

一方、年齢別（平成20年）では、30歳代が18.1万人（17％）、
40歳代が18.9万人（18％）となっており、働き盛りの年代が最も
多くなっています。長引く景気低迷によるストレスや従業員のリス
トラに伴う長時間労働などが、その背景にあるものと考えられます。
中小企業経営者として、従業員のメンタルヘルス問題は決して他人
事ではありません。いまから具体的な取り組みを進めておく必要が
あります。
なお、この患者調査では、医療施設に受診している患者が対象と
なっているため、実際にはこれより多くの患者がいるものと推測さ
れることを付け加えておきます。

２．うつ病を初めて知ったときからつづく苦悩の日々

さて、私がはじめて「うつ病」を知ったのは、ある日、優秀な従
業員が無断欠勤をしたときでした。数日間、まったく連絡がとれな
い状況が続き、お客様との約束の期日が迫ってきました。ようやく
本人から電子メールで「風邪」との連絡があり、お客様にも事情を
ご理解いただいたことで、一件落着だと安心しました。しかし、そ
れから１週間後、本人が復帰した際に事情を聞くと、以前の勤務先
のときから同じような状況が続いていることが初めて分かりました。
それから数年の間、従業員共々、苦悩の日々が続きました。

まず、わが社への入社前から「うつ病」を患っている従業員が、
最終的に５名もいました。当時、わが社の平均従業員数は10名未
満でしたので、他の従業員にも心理的・時間的な負担が増していま
した。そして、仕事上のミス（納期遅延や品質低下）が頻繁に発生
し、他の従業員からの応援も間に合わず、取引停止になったことも
ありました。さらには、事実と異なる報告が目立ち、従業員同士で
懐疑的な雰囲気が出てしまいました。また私自身のストレスから、
従業員に対して厳しく接することが多くなり、退職者も出てしまい
ました。
とにかく、本人はもちろんのこと、他の従業員も私もつらい日々
が続きました。

３．うつ病で苦しむ従業員と向き合う

中小企業経営者が「うつ病」を治すことはできませんが、私自身
が少しずつ実践したのは、「私自身が深く反省し、従業員一人ひとり
と向き合う」ことでした。以下に、具体的な内容をご紹介します。

(1)朝の挨拶や顔色、昼食の有無、仕事中の姿勢や居眠りなど、普段
と違うことがないか観察しました。
（居眠りしても怒らず、散歩や場所を変えるなどリラックスするこ
とを勧めました。）
(2)体調や仕事で問題を抱えていないか、定期的に本人から話しを
聞くようにしました。
(3)うつ状態や睡眠障害がある場合には、無理に出社させず、１週間
単位で自宅療養を認めました。
(4)本人の体調が比較的良い場合には、本人ともよく相談して、自宅
勤務を認めました。
(5)本人が希望すれば、他の従業員に病気のことを伝え、病気に
対する理解と協力をお願いしました。
(6)お客様との信頼関係が深く、本人が希望すれば、お客様にも病気
のことを伝え、仕事が円滑に進むようにお客様も含めてみんなで
協力し合いました。

４．参考書籍とホームページのご紹介

私が「うつ病」と苦闘していた頃は、大きな書店でも「うつ病」
に関する書籍は、まだ少ない時期でした。現在は、うつ病に関する
書籍も多く出版されており、行政機関も対策を強化しています。
最後に、当時、私自身が参考にさせていただいた書籍のなかから
２冊をご紹介します。一般向けに分かりやすく記述されております
ので、お忙しい中小企業経営者の皆様も比較的短時間で読むことが
可能です。

(1)山田和男著『もしかして「うつ」？―早く見つけて正しい治療を』
PHP研究所
(2)細川貂々著『ツレがうつになりまして。』幻冬舎

※厚生労働省ホームページ『みんなのメンタルヘルス総合サイト』
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html

坂口憲一