経営お役立ちコラム
従業員の「権限によらないリーダーシップ」を引き出し、現場の力を自社の強みにしよう

◆権限によらないリーダーシップとは
最近の若者は間違いを極端に恐れる傾向があると言われています。指示には忠実だがそこからはみ出した行動は避けたがります。一方、仕事の現場では日々想定外のことが発生します。いちいち指示を待っていては、対応はどんどん遅れます。経営者の細かい指示がなくても従業員の誰かが主体的に動き、周囲を巻き込んで問題を解決してくれたら、と思うことがあるのではないでしょうか?
このような場面で求められるのは、従業員による「権限によらないリーダーシップ」の発揮です。これは管理職など制度的な権限の裏付けがない人が発揮するリーダーシップです。

◆必要な3つの行動
権限によらないリーダーシップを発揮するとは、具体的にどのような行動を取ることでしょうか?早稲田大学の日向野教授は「目標設定・共有」「率先垂範」「同僚支援」を「必要な3要素(行動)」と呼んでいます。
「目標設定・共有」とは、組織が取り組むべき課題を考え、メンバーに示すことです。「率先垂範」とは、メンバーに期待される行動をまず自分がやって手本となることです。「同僚支援」とは、他のメンバーが行動しやすいようにサポートすることです。

具体例で考えてみましょう。ある企業では、顧客データやイベントに関する資料をグループウェアで管理していましたが、保存ルールはなく、作成者が自分の都合にあわせて保存していました。その結果、いつも資料探しに時間がかかり、業務運営は効率的とは言えない状態でした。誰かがリーダーシップを発揮して、データ保存ルールを決め、散在するデータの整理整頓をすることが求められる場面です。
このような場面で「目標設定・共有」とは、例えば、データ保存ルールの必要性をメンバーに伝え、協力を得ることです。「率先垂範」とは、ルールの案を出す、作業の取りまとめ役を買って出る、などです。「同僚支援」とは、他のメンバーの質問に答える、作業期日のリマインダーを送る、などの行動です。

◆3要素の習得方法
指示待ちに慣れた従業員にリーダーシップを発揮せよと言っても簡単ではありません。このような行動を身に着けるにはどうしたらよいでしょうか?
最近は高校や大学の授業でもリーダーシップが扱われており、既に知識は持っている若者が増えていますが、実際の仕事の場面で発揮していくためには、OJTでの実践が必要です。
OJTで重要なのは、目標設定と建設的なフィードバックです。

まず、今後想定される仕事の場面で、どのような行動をとるべきか、上司と本人の間で事前に相談し、目標として設定します。例えば、「目標設定・共有」に関しては、上司から仕事の指示があったときには必ずその仕事の目的や目標を確認して取り組む、といった目標が考えられます。チームの定例会議で、わからないことを流さずその場で質問する、というのは「率先垂範」の目標となり、後輩や同僚の発言を促す行動を取る、というのは「同僚支援」の目標になります。上司からの指示や定例会議など、具体的な場面を想定して設定することで、実践のタイミングが明確になります。

実際の仕事の場面では、様々な困難にぶつかります。目標が曖昧でメンバーの納得度にばらつきが出る、上下関係など既存の人間関係や力関係にとらわれて動けなくなる、リーダーシップ発揮の必要性に気づかず傍観者になってしまう。同僚支援のつもりがお節介になってしまう・・・しかし、どんな場面でもリーダーシップを発揮できなければ、それが身についたとは言えません。
そこで建設的なフィードバックで実施を支援していきます。定期的に振り返りの時間を持ち、3要素を実践できたか、できなかった場面ではどうすべきだったか、次に似たような場面に出くわした場合どうすべきか、本人と認識をすり合わせていきます。
振り返りを繰り返すことで、本人のリーダーシップに関する理解が深まり、習慣として定着していきます。

◆経営者の役割
従業員が権限に寄らないリーダーシップを習得するために、経営者に求められる最も重要なことは、周囲に「権限によらないリーダーシップ」を理解してもらうことです。組織全体にリーダーシップを推進する風土がないと、本人が実践したときに、生意気だと誤解されたり、余計なことと叱られてしまったりしかねません。
部下がリーダーシップを発揮しようとして取る行動は、ときには的外れなものもあり、業務の効率が下がることもあるかもしれません。しかし、これは従業員がリーダーシップを習得するのに必要な投資です。習得後の業務の効率は従前の水準を上回り、それは他社のまねできない自社ならではの強みになります。従業員を信じて成長の機会を与えることが、結果的に組織全体を底上げし、環境変化への円滑な対応を可能とするのです。

<参考文献>
日向野幹也「高校生からのリーダーシップ入門」(ちくまプリマー新書)
堀尾志保、舘野泰一「これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで」(日本能率協会マネジメントセンター)


<<執筆者>>

川村直行

2023年診断士登録。城南支部所属。
メガバンクや政府系金融機関に長く勤務し、営業部門や管理部門など4部署で管理職として組織のマネジメントに従事。現在は経営コンサルタントとして独立し、中小企業の組織作りの支援や企業の新人研修等を手掛けている。2021年3月早稲田大学履修証明プログラム「21世紀のリーダーシップ開発」修了。

24/03/31 21:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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