経営お役立ちコラム
事業承継計画の立案方法とポイント

 事業承継は、経営者にとって自ら進退に関わることなので意思決定の中でも最も難しい経営判断のひとつになります。とはいえ、事業承継を先送りにしていると打つ手が限られるばかりであり、後回しにして良いことはありません。

 経営者が、今まで築きあげた会社を次の世代に残すためにも事業承継と向き合ってはみませんか。

 

■事業承継計画の立案方法とポイント

1.事業承継の進め方

 事業承継の進め方は、大まかに「現状の整理」→「後継者の確定」→「事業承継計画策定」の手順となります。現状の整理として、財務状態、株主構成、経営者個人の資産、家系図、親族の状況、後継者候補の有無、経営状況などの情報を収集して整理します。会社の状況に応じて後継者を検討し、後継者が確定したら、事業承継計画として「いつ承継するのか」「だれに承継するのか」「なにを承継するのか」「どのように承継するのか」を具体的な内容と対策、実行する時期を策定します。

 

2.代表的な検討項目や留意する事項

 事業承継計画の立案は、多面的にバランスよく検討していく必要があります。その中で、代表的な検討項目や留意する事項は次のとおりです。

 

(1)後継者の選択と育成

 誰に後継者として会社を引き継がせて、どのように後継者として育成していくかです。後継者を選択するパターンとして、子供や親族へ承継する「親族内承継」、会社のことをよく知る従業員に承継する「親族外承継(従業員等)」、M&A等により第三者に承継する「親族外承継(第三者)」に分けられます。「親族内承継」や「親族外承継(従業員等)」は、早い時期に後継者を決定することで時間をかけて計画的に育成することができます。後継者に社内で各部門をローテーションさせることで経験と知識を習得させ、責任ある地位に就けて権限を移譲し、重要な意思決定やリーダシップを発揮させることで、経営者としての自覚を芽生えさせるように育成します。

 

(2)経営権の安定化(自社株の後継者への集中)

 会社経営の重要な意思決定は、株式会社の最高の意思決定機関である株主総会となります。後継者がリーダシップを発揮して安定的に会社経営を行うためには、いかに自社株を後継者に集中させることができるかです。そのために、現状の株主構成を把握して、事業承継後の株主構成について考えていきます。

 

(3)株価対策

 後継者が誰になるのかによって株価対策が大きく変わりますが、「親族内承継」では、後継者の買い取り資金の負担を少なくするために、自社株の評価額を合法的に圧縮できるかがポインになります。逆に、M&Aのような「親族外承継(第三者)」では、会社売却価格を高く算出するために、会社の磨き上げを行い、価値を高めていくことがポインになります。

 

(4)事業の継続性

 後継者の下で、自社の競争力の源泉を損なわずに事業を継続していけるかです。これまで経営者に依存していたノウハウや経験、顧客や協力会社・調達先との繋がりなどの「目に見えにくい経営資源」を整理して、自社の魅力を後継者に引き継ぐことがポイントになります。

 

(5)人間関係への配慮

 後継者はもちろん、親族や従業員等の利害関係者の配慮も必要になります。経営の安定のために、自社株や事業用資産を後継者に集中させることは重要なことですが、一方で公平な相続という観点からは反することになります。「争族」防止のためにも後継者以外の相続人に対して家族会議を開き、充分な合意形成を得ることが大切です。また、後継者が会社運営にあたり、今までの経営者の片腕を担ってきた古参幹部の処遇に考慮することも、円滑に事業承継を進めるためにも重要になります。

 

■事業承継を踏み切るために

 事業承継は、経営者を日頃サポートしている専門家や片腕となる部下などの提言によって始まることは期待できません。それは、提言する立場の側も経営者の交代によって地位が危うくなるからです。事業承継を始める判断は、経営者自身で「気づき」を得て、そして「行動」するしかありません。

 事業承継で取るべき対策は、個々の会社の状況によって大きく異なります。自社に合った最適な事業承継計画を立案するために、まずは、自治体、商工会といった公的機関などが行う事業承継セミナーや個別相談会を活用してみてはいかがでしょうか。

 例えば、品川区では事業承継支援事業として、区内の中小企業の経営者・後継者を対象に、お悩みに対するアドバンス、診断、事業承継プラン策定などを行う専門家派遣の事業があります。このような取り組みは、今後、他の自治体にも広がっていくと考えられます。

 早めの事業承継対策の取り組みにより、今まで築きあげた会社を未来に託してみませんか。

羽田 巧

17/04/30 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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