経営お役立ちコラム
下請取引から脱却し、新たな顧客を獲得するには

「『若僧』中小企業経営者の奮闘記」は、零細ソフトウェア開発
会社(従業員6名)の創業時から、取締役として企業経営に取り組
んできた私自身の実体験をもとに、3回の連載でご紹介します。中
小企業経営者のみなさまと同じ目線で、企業経営に少しでもお役に
立てる情報をお届けします。

1.現場で鍛えられた若僧経営者

私は、地方の国立大学を卒業後(在学中にロシア連邦のサンク
ト・ペテルブルグ大学に1年間留学)、中小貿易商社に入社しました。
入社2年目の夏、先代社長から子会社設立と出向を命じられました。
子会社設立の目的は、「グループ全体の新たな収益基盤の確立」であ
り、親会社が考える子会社の経営方針は「既存事業とは全く異なる
新しい事業分野への進出」でした。

しかし、当初はIT業界(情報技術/IT:Information Technology)
での取引実績がなく、具体的な経営戦略や戦術、従業員さえもいな
かったため、これまで随分と試行錯誤を繰り返してきました。そし
て、経営者としての心構えや経営能力、人生経験の不足に対して無
頓着であった私が、日々の成功と失敗を通じて、企業経営の苦しさ
と楽しさを学んでいきました。

2.下請取引脱却を決めた苦渋の決断

下請取引は、専門技術の蓄積や継続的な案件獲得を期待できます。
しかし、近年では親企業からのコスト低減要求が非常に厳しく、景
気低迷で案件の獲得すら難しくなってきました。そこで、私たちは、
組織と個人の成長や自身の目標を達成するために、事業構造を大き
く変える決断をしました。

3.失敗の積み重ねが大きな成果に

私たちは、大手製造業の研修センター管理システムの開発を通じ
て、「人材育成」に興味をもちました。そして、人材育成の費用対効
果を明確に提案できる業種に対して、システム導入の提案営業を行
うことにしました。

まず第一に、個人の成果が組織の成果に大きく貢献する仕事を、
従業員みんなで話し合いました。その結果、老若男女を問わず人気
が高まっている美容業界に着目することにしました。
第二に、市場規模や市場特性について、統計資料による定量調査
と女性従業員からのヒアリングによる定性調査を行いました。実際
に、私自身も美容サービスを体験しました。
第三に、一般消費者のニーズに対する美容業界の現状と問題点、
その解決方法を提案資料にまとめました。
第四に、専門雑誌や業界紙を発行する複数の出版社に意見を求め
ました。また、美容業界専門やベンチャー支援のコンサルタントに
も意見を求め、サロン経営者への面談の機会を得ることもできまし
た。しかし、提案内容に対する評価は非常に厳しく、門前払いもあ
れば、提案内容を何度も修正することもありました。

そして最後に、コツコツと足で稼いだ情報収集です。ある展示会
に参加した際、何気なく手にした業界紙の記事に驚きました。私の
母校の教授のお名前が掲載されていたのです。早速、私の恩師に手
紙を書いたところ、教授との面談が実現しました。私たちの想いを
伝え、ご指導をお願いしたところ、管轄省庁の担当者をご紹介いた
だきました。その後、管轄省庁で担当者へのプレゼンテーションを
実施したあと、ある業界団体の理事長をご紹介いただきました。
最終的に競合他社との比較検討の結果、私たちの提案が採用され
ました。数万人の個人情報を管理する大規模な認定資格管理システ
ムの開発と運用の受注に成功したのです。

4.中小企業でも実践できる新たな顧客の獲得方法

この成功事例から学んだ重要ポイントは、以下の6つです。

(1)仕事のアイデアは日常業務の延長にあり、アイデアの創造を意識
的に行い、従業員と共有する。
(2)統計資料やヒアリングを通じて、市場規模や市場特性について定
量的・定性的な分析を行う。
(3)消費者ニーズを推定し、現状とのギャップに対する仮説を考える。
(4)問題点を解決する具体的な施策を提案資料としてまとめる。
(5)業界関係者から提案内容に対するヒアリングを実施し、仮説に対
する検証と調整を繰り返す。
(6)多くの方々からのご支援に感謝し、ご縁を大切にする。

これらの作業は、マーケティング活動に投資が困難な中小企業で
も、着実に取り組むことが可能です。

坂口憲一

10/11/07 17:12 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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