経営お役立ちコラム
無料求人広告をめぐるトラブルとその対処

1 トラブル発生の状況
 ご承知の通り、昨今は、企業の大小を問わず、人手不足に見舞われております。特に中小企業の経営者は、企業の存続にかかわるところでもあり、死活問題であると思います。このような弱みに目をつけた業者が、ハローワークの情報をもとに、電話やFAXで「◯日間は無料で掲載します」と、求人情報サイトへの情報掲載を勧誘し、申込書(小さい字や裏面に無料期間終了の一定日前に解約しなければ1年間自動更新、掲載料金を請求すると記載があることが多い)に記名押印して提出を求められ、期間経過後(3週間程度が多い)に、突然1年分の掲載料金(数十万円程度の払えそうな金額が多い)を請求されるトラブルが続出しています。弊職のもとにも、この1年間で建設、飲食、ホテル、清掃など色々な職種での相談がありました。このようなトラブルに対して、中小企業としてはどのように対処すればよいのでしょうか。

2 事前の対策
 最善の対処策は、「タダより高いものはない」ことから、このようなエサを撒きに来るような営業に対しては絶対乗らないという当たり前の姿勢です。また、自社の職種にあう評判の良い求人サイトを事前に調査することで、それ以外のアプローチを遮断するなどの姿勢も重要です。さらには、応募する人の立場になって、検索をしてみて連絡のあった業者のサイトが表示されるか、また業者のサイトの知名度があるか、情報量等が充実しているか等を確認するなど、問題点について、他人頼みではなく、落ち着いて、きちんと調査したうえで判断するということが肝心ということかと思います。

3 事後的な対処
 では、無料掲載等を申し込み、気が付いたら請求を受けてしまっている、という場合はどのように対処したらよいでしょうか。督促を無視する、あるいは無料であることを前提として申し込んだだけ、と言って支払いを拒絶するという対処も考えられます。しかしながら、何度となく支払いを請求され続け、根負けして一部を支払わざるを得なくなり、また稀ですが業者が裁判を起こすケースもあるようです。
 一方で、弁護士に依頼し、支払いを拒絶する内容証明郵便を送付するということが考えられます。この場合、一見有効な申込書面を受領しているとも思える業者に対して、理論的には、1)無料期間だけという前提で申し込みをしているとして、「契約不成立」、2)有料契約移行について書面上認識しえない体裁(裏面や小さい字での記載)で本人も認識してない等として「錯誤無効」(民法95条)、3)求職者が検索してもサイトが表示されず求人効果が期待できないとして「詐欺取消」(民法96条)、4)勧誘方法、申込書の体裁、費用体系、求人効果等を総合的に考慮して無効とする「公序良俗違反」(民法90条)、5)有料契約が成立したとしても、求人効果が期待できないものとして「債務不履行」(民法415条)による解除、といった法律構成に基づき、事実関係を踏まえたうえで展開し、いずれにしても掲載の停止と支払いの拒絶を主張することになります。
 弁護士が通知書を送ると、業者から連絡が入り、これ以上は請求しません、ただ一部でも払ってもらえませんか?などと言われることもありますが、当然お断りしております。実際に裁判例等では目にしたことがありませんので、業者としても紛争になりそうなら引き、払ってくれそうな企業にのみ折衝等して対応しているということだと思われます。
 いずれにしても、毅然として対応すれば、支払いをする必要はないのが通常ですので、対処しきれず悩んだときはすぐに身近な専門家に相談することが肝要であると言えるでしょう。

丸山 幸朗(弁護士・中小企業診断士)

20/01/31 00:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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