経営お役立ちコラム
善良なお客様の悪質化を防ぐ、クレーム対応の留意点

企業活動には必ずクレームのリスクがあります。特に近年は行き過ぎたクレームが社会問題化するケースもあり、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作るまでになっています。クレーム対応の現場で理不尽な経験をした方も多いのではないでしょうか。
しかし、事業者を困らせるクレームを発するお客様の全てが、モンスタークレーマーというわけではありません。商品やサービスで期待が満たされなかったことの失望や、クレーム対応への不満から感情が高ぶっているだけで、本来は善良なお客様である場合が多々あります。
今回は、筆者がメーカーのお客様相談室で1万人近くのお客様の課題を解決した経験から感じる、「本来は善良なお客様」を悪質化させないためのクレーム対応のポイントをお伝えいたします。

(1)解決を急がずお客様の状況理解から始める
商品やサービスの不良についてお客様から指摘を受けた時には、すぐに解決策を提案せず、まずはお客様を困らせている状況に謝罪を行います。その後、解決のために話を聞きたいと伝え、「6W3H」について確認を行います。クレームの原因が明らかな時や、お客様側に勘違いや誤解がある時も、まずは話を聞いて状況を把握します。実は、想定と実際のクレームの状況が異なっていたというケースも多々あります。

そして、この状況についてお客様がどう感じているかも合わせて探っていきます。
同じ事象でのクレームでも、ご指摘を通してどんな解決を求めているかはお客様によって異なります。例えば商品の不良に対して、「すぐに交換して欲しい」「まずは手元で対処できることがないか聞きたい」「不良の原因を調べて欲しい」等、求めている解決はそれぞれ異なります。また感情も、「イライラしている」「怒っている」「悲しんでいる」「解決さえできれば構わない」等それぞれです。
見当違いな提案や言葉がけをしてクレームをこじらせないためにも、まずはお客様が何を求め、どう感じているのかを知ることが大切です。

(2)寄り添いの言葉をかける
状況が分かってきたら、お客様の心情を理解する言葉をかけることで寄り添いを示し、対応者とお客様の間に架け橋を作ります。
ポイントは、「〇〇でご迷惑をおかけしたんですね」「〇〇ができなかったという事ですね」と状況を代弁し、お客様から「そうだよ」と肯定を引き出すことです。もしお客様の勘違いや筋の通らない要求でも、まずは「〇〇でお困りになったんですね」とお客様側の立場にたって声をかけてみます。
人は、肯定的な返事をすることで、気持ちが落ち着きその後の話も聞きやすくなるという心理があります。特にそれが心情の代弁であると、お客様は「自分の気持ちを理解してもらえた」と感じます。
筆者の経験からも、しっかり話を聞いた後でこの寄り添いの言葉をかけることができれば、ほとんどのお客様に落ち着いていただけます。
感情をケアした後に、当初ヒアリングした内容からご指摘の原因を探ったり代替品を提案したりするなど、解決に向けて建設的に話を進めていきます。また、既に終わったサービスへの苦言など、代替案で解決が難しい指摘なども、寄り添いによって謝罪のみで気持ちをおさめていただくことも可能となります。

なお、残念ながら上記の手順を踏み丁寧に対応しても、クレームが解決に至らない場合もあります。お客様が独自の価値観に基づいて理不尽な要求をしている、当初から悪意を持ってクレームを伝えてきている等の場合です。是認できない要求が繰り返される時は、カスタマーハラスメントとして毅然とした対応を行うことも重要となります。

今回紹介した対応のポイントを押さえることで、感情が高ぶっているお客様を徐々に落ち着かせることができ、対応者について「誠意が伝わらない」「話し方が気にくわない」など新たなクレームが広がっていくリスクも減少します。
「本来は善良なお客様」の悪質化を防ぐことは、スムーズなクレーム対応を行えるだけではなく、対応を通してお客様を自社のファンにしていくことにも繋がります。
ぜひ、クレーム発生時にご留意いただければ幸いです。


<<執筆者>>

長谷部 美喜

2024年登録の中小企業診断士。現在は大手メーカーのお客様相談室で勤務中の企業内診断士。お客様の潜在ニーズを意識した対応により1万人以上のお客様の課題解決した、指名が入る相談員。
一般のお客様と接点がある企業を主とした経営支援実績があり、特にクレーム対応で培ったお客様対応の経験と経営のアドバイスを組み合わせた、顧客満足度向上に関する提案を得意としている。

24/04/30 21:00 | カテゴリー:,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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