毎日出社し顔をあわせて仕事をする。そんな働き方は当然であり常識でした。しかし、そんな常識は一変し、働き方は変革の時期を迎えました。いわゆるニューノーマル時代です。ニューノーマルとは「新常識」という意味です。コロナ流行等の社会全体の変化に適応した新たな常識のことです。テレワークが代表的な例でしょう。感染防止のみならず、通勤のストレス軽減や育児・介護との両立といった社会問題に適応するべく多くの企業に導入されました。
しかし、導入が進むにつれて「労働生産性や帰属意識が低下した」という否定的な意見も出てきます。指示された仕事しか行わない、家族都合を理由に働かない、メンバー同士の連携ができない等の問題により、テレワークを縮小・廃止する企業も現れます。
早期からテレワークに移行したアメリカの大手IT企業(IBM、ヤフー、Twitter(現X)等)も従来の出社を前提とした働き方に戻しています。主な理由は「コミュニケーション不足」です。報告・連絡・相談がなされず進捗や課題が把握できない、また協働意欲や一体感の欠如により仕事の進行に支障をきたす等、危機的な状況に陥る現場も出てきました。このような問題を内包した新しい働き方でのプロジェクトマネジメントはどのようにすべきでしょう。
プロジェクトマネジメントにおいて、人間関係と情報共有は重要な管理要素です。全員が物理的に同じ場所にいた時代は、管理が十分に機能しなくても、メンバーの関係性が良好であれば円滑に物事が進みました。共通目的や規律が自然に作られ、相互尊重や意思伝達も容易になるプラスの集団心理が働くためです。反対にメンバー間の距離が離れると個と個を結びつける必要があります。これを怠るとチームはバラバラになります。友人や家族でも、意識的に連絡を取らないと疎遠になるのと同じです。
物理的な距離が離れたことにより、従来型の目に見える範囲だけのマネジメントでは溝が埋めきれなくなりました。そこで注目を集めているのが「ピープルマネジメント」です。従来のマネジメントが仕事の「成果」に重きを置くのに対して、ピープルマネジメントはメンバーの「成功」を重視します。メンバーの成功とは、給料・役職・労働時間など定量化できるもの以外に、ワークライフバランス・介護や育児との両立・仕事の達成感など目に見えない定性的な内容を含みます。
多様なメンバーの成功を実現するためには、メンバーと向き合い対話することが不可欠です。個々のメンバーが置かれている環境や状況を理解し、共通目標を設定し、積極的にサポートをしながら伴走するのです。これによりメンバーの能力や自主性、モチベーションを高め、組織の成果の最大化を目指します。ピープルマネジメントを導入するために特に大切なことは以下の2つです。
1. メンバーと向き合う時間の確保
個人面談の場を多く設けます。短いスパンで定期的にメンバーの話に耳を傾け、悩みや問題を引き出すことが必要です。些細な変化に気づくように意識し、問題に一緒に向き合い解決策を見つける姿勢が大切です。
2. 高頻度で質の良いフィードバック
意識的に多くのフィードバックを与えましょう。距離の壁が孤立感を生むことを避けるためです。資料のレビューはわかりやすい言葉で伝える、チャットでの会話には頻繁にスタンプを押す、作業段取りは事前に相談し決める等です。
働き方の多様化は今後も進みます。個々の働き方に即した管理手法が必要となるでしょう。今回紹介したピープルマネジメントのように、ヒトに目を向けることの重要性は今後も高くなっていきます。
長瀬 勝好