経営お役立ちコラム
これならできる、初めての障害者雇用(第3回) 採用と定着

◆採用と定着

障害者の就職の過半数は、精神・発達障害者であることは第1回でご説明しました。
今回は、発達障害者を含む精神障害者の採用選考についてご説明します。

1.採用面接で聞くべきこと

障害者の採用で一番気を使うのが障害の内容について聞く場面です。自社に合う人材か否かを判断する重要な要因ですので、下記の質問例に従って判断材料を得るようにしてください。
なお、障害の状況を聞く際には、興味本位ではなく採用の判断材料として質問することと、答えたくない場合には答えない自由もあることを応募者に伝えてください。

① 「ご自身の障害『特性』について教えてください」

障害者手帳を取得した診断名ではなく、過集中や短期記憶の維持が難しいなどの「特性」を確認する質問です。特に精神・発達障害の場合は、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)など複数の障害が混在している場合があるので、診断名は参考程度に留めてください。

② 「最近、体調変化はありますか」

安定的な勤務が可能かどうかを確認する質問です。変化がなく体調が安定している場合でも、どのような点に留意しているため安定しているのかを確認してください。

③ 「勤務中に体調不良となった場合の対処方法を教えてください」

勤務中にできるリカバリー方法を確認してください。「お風呂に入ってゆっくりします」、「大声で叫んで気を落ち着かせます」などは職場ではできないので採用は控えた方が良いでしょう。「静かな場所で30分くらい安静にしていると落ち着きます」、「外の空気を吸って気分転換をします」などの回答であれば、多くの企業で対応できるのではないでしょうか。

④ 「服薬や通院状況を教えてください」

服薬の頻度や副作用(だるくなる、眠くなる)等を確認して、業務中に雇用側として対応しなければならない内容や程度を類推する質問です。通院頻度を聞くことで、体調の安定度も類推できます。

⑤ 「会社に配慮してほしいことを教えてください」

合理的配慮の内容を確認する質問です。私の実務上の経験から、自身の障害特性の理解が進んでいる応募者の配慮希望事項は3〜5個程度が多いです。あまり多くの項目を並べる応募者は、自己理解が進んでいない、または対処方法を身に着けていない場合が多いです。

図表1 面接時の確認事項

2.障害者社員の定着で気をつけること

障害者社員が安定的に勤務できるために雇用側として注意すべきことは、以下の3つです。

① 朝・夕、顔を見て挨拶する

出勤時と退勤時には、障害者社員の顔を見て名前を言いながら「◯◯さん、おはよう」、「◯◯さん、お疲れさま」と挨拶します。
「あなた(障害者社員)の存在を確認していますよ」というメッセージを送ることで、障害者社員は職場に居場所感を感じます。そうすると、少々の体調不良では休まなくなります。

② 勤務中に声掛けをする

廊下ですれ違ったときや、席の後ろを通ったときなどに、「元気?」、「調子はどう?」などと声掛けをしてください。障害者の中には、自分から質問したり発言したりというコミュニケーションに緊張感を覚える人もいますが、声掛けをすることによってそのハードルを下げさせるためです。

③ 定期的な面談を行う

最低でも月に1度は面談を行って、不安や疑問の低減を図ります。特に、入社後3ヶ月程度は環境変化で身体的・精神的なバランスを崩しやすくなるので、半月に1度は面談を行うことが望ましいです。あらかじめ面談スケジュールを伝えて、心の準備と話す内容を考えさせる時間を与えてください。

図表2 定着のポイント

3.最後に

私は、営業部門のマネージャーと障害者雇用部門のマネージャーの両方の経験がありますが、雇用管理の本質は障害の有無にかかわらず全く一緒です。
障害者雇用は、障害の有無にかかわらず全ての社員が持てる実力を発揮できる企業風土を形成することに繋がります。
この記事が、御社の障害者雇用を始めるきっかけとなれば嬉しいです。


第1回:障害者の雇用状況と厚労省の新たな施策
第2回:障害者雇用のフローと留意点


<<執筆者>>

木下文彦(きのしたふみひこ)

中小企業診断士・特定社労士、ラグランジュサポート株式会社代表取締役
前職では、障害者雇用部門の責任者として、雇用戦略の立案・社内理解促進・業務創出・採用・定着・教育研修・評価など全社70名の障害者社員の雇用管理を行った。
現在は、企業に対する障害者雇用コンサルティングや人材関連の補助金・助成金業務を展開している。
2024年11月1日「従業員300人以下の企業の障害者雇用」(中央経済社)出版予定。

24/07/31 21:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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