経営お役立ちコラム
これならできる、初めての障害者雇用(第2回) 障害者雇用のフローと留意点

◆障害者雇用のフローと留意点

前回は、最近の障害者の雇用状況と厚労省の新たな施策について確認いたしました。今回は、障害者を雇用するための実務上の対応について、ご説明いたします。

1.退職理由からやるべきことを考える

障害者社員の退職理由の上位は、職場の雰囲気や人間関係、仕事内容の不一致です。
賃金などの労働条件は、財務状況などの事情により一気に改善することは難しい面もあります。まずは職場の人間関係の改善や仕事内容の見直しに取り組むことで、障害者を雇用しやすく、障害者社員が定着しやすい職場環境を形成することができます。(図表1)

図表1-1 身体障害者の退職理由

図表1-2 精神障害者の退職理由

2.障害者雇用のフロー

障害者雇用を行うに当たっては、その目的や意義を企業理念や事業戦略に基づいて言語化することが重要です。障害者雇用の具体的フローは以下のとおりです。(図表2)
まず、採用活動に割ける時間的余裕や予算を検討します(雇用方針の決定)。次に従業員の障害への理解や障害者と接する際の留意点の理解促進を行い(社内理解の促進)、障害者社員が担当する業務を決定し(業務創出)、人材要件を確定します。最後に、採用活動を行います。

図表2 障害者雇用のフロー

3.企業に求められる対応

図表2のうち企業の対応について、特にご理解いただきたい部分についてご説明します。

① 社内理解の促進
社内理解を促進させるためには、「何のために障害者雇用を行うのか」という、雇用目的の共有がポイントになります。
社長が、自分の言葉で社員に向けて企業理念との関連性や障害者雇用を通して実現したい自社の姿を話すことが重要です。
また、年1回は障害や障害者雇用に関する知識を確認する社内研修を行い、職場のベクトルを合わせることが必要です。障害者社員の定着には職場の理解が不可欠です。

② 担当業務の創出
第1回で見たように、新規求職件数と就職件数の半数以上は発達障害者を含む精神障害者です。企業は、精神障害者や発達障害者の障害特性を考慮した業務を創出する必要があります。
精神障害や発達障害には様々な障害特性があり、断定的にその業務特性を示すことは難しいですが、一般的には以下のような、業務手順が固定しやすい(マニュアル化しやすい)業務が向いているとされています。
・紙の書類のPDF化作業
・郵送物の封入・封緘、発送作業や仕分け作業
・データ入力作業
障害者社員に担当してもらいたい業務を集めるのではなく、「自分以外の誰かにやってほしい業務」を抽出し、その中で障害特性に合う業務を選定することがポイントです。

具体的に担当業務を検討する際は、重要度と緊急度の2軸で考えます。
精神障害者や発達障害者は、突発的な予定変更や臨機応変な対応を苦手とする傾向が強いので、重要度が高く緊急度が低い業務が適しています。

図表3 重要度と緊急度

担当業務を検討する場合には、「集める・分解する・先送りを止める」という考え方が重要です。

図表4 担当業務の考え方

③雇用ノウハウの蓄積
障害者雇用では、障害者が所属する部署の業務指示担当者に任せきりになることが往々にして起こります。
障害者社員本人や業務指示担当者への上長の定期的な面談を行い、個々の問題に対応するなかで組織知として企業の人材対応能力を向上させてゆく取組が求められます。

次回は、採用と定着についてお話します。

◆参考資料
「平成25年度障害者雇用実態調査」厚生労働省2014年12月


第1回:障害者の雇用状況と厚労省の新たな施策


<<執筆者>>

木下文彦(きのしたふみひこ)

中小企業診断士・特定社労士、ラグランジュサポート株式会社代表取締役
前職では、障害者雇用部門の責任者として、雇用戦略の立案・社内理解促進・業務創出・採用・定着・教育研修・評価など全社70名の障害者社員の雇用管理を行った。
現在は、企業に対する障害者雇用コンサルティングや人材関連の補助金・助成金業務を展開している。
2024年11月1日「従業員300人以下の企業の障害者雇用」(中央経済社)出版予定。

24/06/30 21:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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