経営お役立ちコラム
「コロナが変えたリーダーシップ」 ~「安心を与える」から「信頼でつながる」へ~

1.はじめに
新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、世界のあらゆる組織において、リーダーシップの在り方を根本的に問い直した。著者の知る中小企業経営者においても、自らのリーダーシップへの自信がゆらいだ人が多い。前例のない事態に正面から向き合い、重要な決断を下し、従業員と会社を守っていたにも関わらず、である。
では、コロナは中小企業の経営者にどんな影響を及ぼしたのだろうか?リーダーシップをどのようにアップデートすれば、ウィズコロナ、ポストコロナと言われる時代において、従業員は経営者を支持し続けてくれるのだろうか?本コラムでは、筆者の経験とリーダーシップや社会学の知見を元に、上記の問いに答えていく。

2.リーダーシップはフォロワーシップの裏返し
まず、リーダーシップは、フォロワーシップと表裏一体であることに留意して欲しい。リーダーシップ論は数えきれないほどあるが、それらが提示しているリーダーシップの型に惑わされてはいけない。リーダーの要件はただ一つ、フォロワーを獲得し維持することである。この極めて単純な前提に立つと、コロナがリーダーシップに与えた影響を考えるには、フォロワーとしての従業員がどんな影響を受けたのかを知ることが重要だとわかる。

3.コロナ以前の「安心」ベースのリーダーシップ
社会学やリーダーシップ学の論説では、戦後日本社会におけるフォロワーシップは、「安心」に基盤を置いて来たとされている。ここでいう「安心」とは、「フォロワーがリーダーに利益を与えている限り、リーダーはフォロワーを裏切らない」、というフォロワーの期待を意味する。よく言えばWin-Win、悪く言えば損得関係と言える。戦後の慢性的な労働力不足と右肩上がりの経済成長の下で、多くの企業が終身的雇用慣行と年功序列的賃金という雇用システムを採用した。従業員は、社長に従ってまじめに働いていれば、経済成長にも助けられ業績を上げることに貢献できた。その見返りに、社長は従業員に働く場と昇給を提供した。素晴らしい互恵関係である。
しかし、社会学者は警鐘を鳴らす。「安心」が成り立つのは、社会的確実性が高い環境下にある場合のみである、と。この場合の従業員の「安心」は、まじめに頑張っていれば社長の期待に応えることができるという予測の確実性が高い、という前提のもとに成り立っている。自分は社長に利益を与えられるのだから、社長は自分を裏切らない、と期待するのだ。だが、今、この従業員の予測の確実性は大きくゆらいでいる。

4.コロナ以後の「信頼」ベースのリーダーシップ
VUCA()という言葉が広まったことに象徴されるように、企業を取り巻く社会的環境は、徐々にではあるが確実に不確実性を増してきた。そして、2019年に始まった新型コロナウイルス感染症の蔓延は、健康被害と世界規模でのサプライチェーン中の毀損をもたらした。わたしたちは、明日の約束が確実に果たされる保証のない、極めて脆い社会システムの上で生かされていることを思い知らされた。従業員は、もはや、一生懸命頑張っても、必ずしも業績を上げて社長に利益を与えることができなくなったと感じ、不安におびえている。こうして、コロナは、フォロワーシップの変質を通じて、「安心」に基盤を置いたリーダーシップに根本的な問いを投げかけているのである。
では、「安心」に代わるリーダーシップの基盤は何か?筆者は、自らの経験と社会学とリーダーシップ学の論説から、それは「信頼」であると考える。「信頼」とは、仮にフォロワーがリーダーに利益を与えられないとしても、リーダーは裏切らないという期待感である。従業員が、社長の期待する成果を出せなかったとしても、それを属人的な問題として叱責する、あるいは、「あいつはダメだ」と一方的に断じて済ませないことだ。むしろ、彼らが成果を出せるように、育成や指導を適切に実施する。さらに、労働環境や業務システム改善を行う。これらの行動をとることで、従業員は、社長とは人格や愛情でつながっている、と自覚するようになる。そして彼らは社長を「信頼」し、生産性高く忠誠心厚いフォロワーへと成長してくれるのである。
社会的確実性の高い経営環境における「安心」から、不確実性の高い環境における「信頼」へ。利益の相互保証に基づく「与える」リーダーシップから、人格や愛情に基づく「つながる」リーダーシップへ。コロナを機に自らのリーダーシップを見直してみては如何だろうか。

※「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べた造語。

<<執筆者>>
髙木 久志

 

 

 

 

2020年中小企業診断士登録 社会保険労務士 ランニングアドバイザー
サイドバイサイド経営コンサルティング合同会社 代表
人と会社の「志」を実現するために伴走する人事・経営コンサルタント
大手製造業と外資サービス業にて、営業・事業、人事・労務、マネジメント、各種制度設計を経験。
現在は、製造業とサービス業を中心に、人事制度構築・改定、リーダー育成、事業再編、創業起業などの分野で伴走型支援を行っている。

22/08/31 21:00 | カテゴリー:, , ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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