どんな形態でも、海外進出を考えるにあたり、どの国をターゲットとするか判断するため、その国の情報を事前調査することは大切なことです。
私からは、昨今根強い人気が継続するインドを題材として、環境面とビジネス面の前後編に分割して、参考になる情報をご提供できればと思います。今回は、前編(環境面)です。
1.インドへの期待と進出計画の現状(JBICレポート分析から)
株式会社国際協力銀行(JBIC)から「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2024年度 海外直接投資アンケート結果(第36回)―」が2024年12月12日に発表されています。同調査報告によれば、海外生産比率は上昇基調を維持しつつも、伸びが鈍化している一方、海外売上高比率は円安を背景に過去最高水準にある状況が示されています。
中でも、中期的に有望と考える事業展開先の国・地域としてインドが3年連続の首位(なお2位がベトナム、3位が米国、中国は6位に下落)となっています。選択の背景には「現地マーケットの今後の成長性」や「現地マーケットの現状規模」をあげる意見が多くみられます。直接投資額(FDI)も3年連続で増加しており、実際の行動にもつながっています。
しかし、具体的な事業計画があるかどうかという質問では約6割は現時点で事業計画がないと回答しています(昨年度比7.4%増加)。進出時の課題としては現地法制の運用が不透明であること、他社との競争が厳しいことをあげる回答が多いようです。こうしたインドをめぐる傾向は非製造業でもほぼ同様の結果となっています。将来性は感じつつも、具体的なビジネスプランの策定には着手できていない状況が推察されます。
2.データでみるインドの概要
インドの現実はどうなのでしょうか。ご存知の方も多いとは思いますが、まずはデータを確認してみます。
人口は14億2800万人で世界1位(2023年時点)、10年前から約10%増加しています(日本は1億2400万人、10年前から約2.7%減少 [世界銀行])。
名目GDPでは世界5位・1人あたりGDPでは146位[IMF/2023年]です。名目GDPはこの10年間で年率(複利)6.75%と大きく成長してきています。
国土は328.7469平方キロメートルで日本の約8.7倍、ヒンディ語を公用語としつつ、他に21言語(!)が公認されており、宗教ではヒンズー教が約8割を占めます(外務省HPより)。国土は多くの州で構成され、言語や生活習慣・食事などの文化が地域ごと異なっているため、多様性に富み、あたかも国の集合体の様相を示しています。例えばナン・チャパティなどの小麦は北部の主食であり、南部では米が主食です。
通貨はインドルピーであり、1ルピー=1.8円程度です(2024年12月20日時点)。基本的に規制通貨ですので、訪問する際には、現地での両替が必要とされています。
確かに統計データ上からも、中期的に有望と考える事業展開先国・地域としてインドが3年連続の首位となるのも分かりますが、日本では考えられないほどの多様性などが、ビジネスプラン策定の難易度を上げてしまい、インド進出検討の足枷になっていると推察されます。
3.リアル・インディア・レポート
では、リアルの世界はどうなっているのでしょうか? 実は私自身、仕事でインド マハーラーシュトラ州ムンバイに訪問する機会が数多くありました。初上陸は、2014年にインド人民党(BJP)政権となってナレンドラ・モディ首相が誕生し、インド中央銀行にはラグラム・ラジャン総裁が就任して、日本においてもインドブームが始まった頃です。
しばらく訪問していなかったのですが、2024年11月に、5年ぶりに訪問する機会がありましたので、変化している部分とそうでない部分も含め、私が現地で抱いた印象は以下のようなものです。
①交通事情
道路事情はもちろん悪く、交通渋滞が酷いです。2車線道路に4台の車が並んで走行し、クラクションの嵐のなか超絶テクニックを駆使しながらドライバーが運転しています。この状況は、5年前と比較して、2024年に訪問したときにもほとんど同じ状況に直面しました。通勤時間は読みにくい状態にあります。また、大気汚染も相応にあり、もやのかかった状況が続いています(季節によって焼き畑の影響もあるとされます)。インド進出時は、交通渋滞には覚悟が必要です。
交通渋滞の様子
(筆者撮影)
②街並み
高層ビルが多数林立するなか、スラム集落が突然登場します。道路脇には”パパ・ママストア”と称される個人商店が多数並んでおり、中には不思議なものが販売されています(大量に吊り下げられているぬいぐるみなど…)。まさに新興国ならではの混沌を体感します。この状況は、5年前と比較して、2024年現在でもほとんど同じ状況です。
恐らく、こうした小規模店舗を守ろうとする政治力が強いため、大規模小売店舗の進出・運営はかなり高いハードルがあり、大きな変化を妨げる要因になっているのではないかと思われます。小売業での進出検討時には、“パパ・ママストア”の存在も考慮する必要があるかもしれません。
③食べ物
カレーはもちろん多種あるのですが、その辛味の対局として非常に甘い伝統的なデザートがあります。写真はそのひとつ、“グラブジャムーン”ですが、機会がありましたらご挑戦ください(激甘です)。
また、インドではトマト・玉ねぎ・ポテト(TOP)の価格がインフレ率の大きな要素を占めていて、TOPの価格が高騰すると国民の不満に直結するといわれています(2023年の消費者物価上昇率5.36%[IMF])
上記はあくまでも一例です。食文化は地域によっても異なり、実際に現地で食べてみないと相性は分からないため、進出検討地域の食事事情は事前に十分に確認することをお勧めします。
グラブジャムーン
(筆者撮影)
4.環境を知るには、体感することが大切
現地・現物・現実といいますが、実際、現地で体感すると統計データでは見えてこなかったリアルな姿を感じることができます。私自身、先日のインド訪問時には、統計データを見る限りでは、5年前よりも大きく成長しているであろうと思っていました。しかし、実際には、変化している部分もありましたが、相変わらず変わらない部分もありました。皆様にも、ぜひインドに訪問していただきたいと思います。ただ、移動や食事などの面でケアが必要になりますので、最初は現地の事情に精通した相手に相談されるか、同行されることをお勧めします。
環境編はこのあたりにしておきまして、次回はビジネス面をお伝えいたします。お読みいただき、ありがとうございました。
【筆者紹介】
榎本 雅也(えのもと まさや)
国内大手資産運用会社において、事業企画・投資商品の商品開発業務に約24年間従事。海外提携先との共同事業の推進やパートナーシップの管理などの業務に数多くかかわる。2021年中小企業診断士登録。
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