コラム
製品の不具合、納期の遅れ、顧客からのクレーム。こうした品質トラブルはどの企業にも起こりうるものですが、「なぜ繰り返すのか」と感じたことはないでしょうか。
本コラムでは、経営者の方に向けて、品質トラブルへの向き合い方を見直すための視点をお伝えします。製造業を主に想定したものですが、サービス業でも「製品=サービス」と捉えれば、自社の事業に当てはめることができます。
品質トラブルの背景には、経営者の捉え方に課題があるのかもしれません。品質トラブルを「現場で起きた問題」として捉えて終わらせるのではなく、「経営のあり方が形を変えて表れた『症状』」として読み解く視点が必要です。
読み解く鍵になるのが「症状を見極める3つの視点」です。すなわち、
① この結果を生んだ背景にはどんな意思決定があったのか
② それを未然に防ぐ仕組みは整っていたか
③ 組織風土はどのようなものであったか
この3つに向き合うことで、現場の出来事を「経営の課題」へと引き上げることができます。
以下に、その具体例を3つ挙げます。
ケース1:製造起因による歩留まり悪化
治具の破損や変形、作業者の不慣れによって、たびたび歩留まりが悪化することがあります。「またか」と、現場では「作業のばらつき」と見られがちですが、真因は予防保全の仕組み不足、OJT頼みの教育体系といった構造的な課題にある場合があります。さらに上位には、治具メンテナンスへの投資判断や、教育にリソースを割くかどうかといった意思決定が関係していることがあります。歩留まり悪化という結果を、設備投資や教育投資に関する意思決定の「症状」として読み解くことができます。
ケース2:不良品の流出
検査工程での見逃しや、不良品管理の不明確さによって、不良品が流出するケースは、現場では「なんで間違えるかなぁ」と「ミス」として処理されがちです。しかし真因をたどると、検査基準の曖昧さ、判定ルールの属人化、不良品の識別ルールの未整備といった問題に行き着く場合があります。さらに上位には、標準化(基準・手順・表示・置き場)の仕組みが整っていないという経営設計の課題が潜んでいることがあります。不良品の流出を、標準化という経営の仕組み不足が生み出す「症状」として読み解くことができます。
ケース3:現場管理の問題
定着しない5S活動、現場独断での4M変更、記録確認の漏れ——これらは業種を問わず起こりうる現場の管理に表れる問題です。「決めたルールは守ってほしいのに……」と、現場では「リーダーの責任」として処理されがちですが、真因はマネジメントレベルの設計にある場合があります。たとえば、現場リーダーの業務負荷が過大、権限と責任の線引きが曖昧、記録管理の形骸化、といった問題です。さらに上位には、「現場任せの文化」「管理方針の曖昧さ」「声を上げにくい雰囲気」など、経営が形づくってきた組織風土が関係していることがあります。こうした現場の管理に表れる問題を、経営により醸成された組織風土の「症状」として読み解くことができます。
品質トラブルが発生すると、発生した現場に目が向きがちです。しかし、それらの多くは、経営のあり方が形を変えて表れた「症状」です。意思決定・仕組み・組織風土という経営の側に視点を引き上げ、経営の構造に手を入れていくことで、「問題が繰り返される」「効果が続かない」といった状態を減らしていくことができるはずです。

執筆者:伊藤博規
中小企業診断士。電機メーカーにおいて部品の品質指導に携わり、これまで50以上の工場、延べ200回を超える現場を経験してきました。現場で起きている事象を起点に、品質の考え方が定着するよう取り組んできました。
診断士としては、現場の品質から経営課題を見える化し経営力を高める「品質×経営」の支援に取り組んでいます。現場と経営の双方に向き合いながら、前に進むための実行可能な施策を共に考える支援を心がけています。
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