コラム

中小企業の海外展開でも留意したい「移転価格」超入門
みんなの国際化
26/01/10

海外に子会社や製造拠点を持つ中小企業が増える一方で、多くの企業が見落としがちなのが「海外の関連会社との取引価格(移転価格)」です。
 
移転価格は、難しい専門用語に聞こえますが、“なぜその価格なのか取引価格が妥当であることを説明できるか”という、とてもシンプルな考え方に基づいています。
 
しかし、この説明が曖昧なまま海外でのビジネス展開を進めると、後になって税務署から追徴課税を求められる可能性があります。
 
海外ビジネスが当たり前になった今、中小企業こそ移転価格の基本を押さえておく必要があります。
 

1.身内同士の取引でも「他人同士の価格」が基準になる理由

たとえば、日本の親会社で製造した商品をシンガポールの子会社に1個1,000円で販売し、子会社が現地で1,500円で販売しているケースを想定します。この時税務署が確認したいと思うポイントは、『その1,000円は本当に妥当か?』という点です。
 
もし日本の親会社が第三者へ販売する場合の価格が1,200円なら、子会社に1,000円で販売すると、日本に残るべき利益200円が海外に移っていることになります。これを防ぐために、「独立企業間原則」と呼ばれる考え方があります。これは、親子会社間の取引でも“他人同士が取引をしたらいくらか”取引価格を基準にしなければならないというものです。海外子会社向けに特別に「高く」しても「安く」してもダメということです。

2.中小企業でも調査対象になるのはなぜか

『移転価格なんて大企業の話だろう』と思う方は多いですが、実際には中小企業でも海外子会社があれば企業規模に関係なく税務署は確認をします。また、商品の取引価格以外にも、無形資産取引や役務提供取引、金融取引もその対象であり、特に次のようなケースは考慮を漏らしやすいと言われています。
 
・日本の親会社の技術や商標を“無償”で海外の子会社に使わせている
・日本の親会社が提供するITシステムや購買支援などのサービスコストを海外の子会社が負担していない
・日本の親会社から海外の子会社への貸付金金利が0%または相場より低すぎる
 
中小企業は意思決定が早い反面、価格設定が“社長の感覚”で決まることも多く、また上記のケースへの考慮がなされていないことも多いため、注意が必要です。

3.まず取り組むべき3つのステップ

中小企業では本格的な移転価格文書の作成までは不要なことが多いですが、最低限次の3つを実施しておくことをお勧めします。
【ステップ1:取引の流れを図解する】
日本→海外子会社→販売先 というお金とモノの流れを簡単な図にしておくだけで、税務署への説明に役立ちます。
 
<例>
日本親会社(製造) → 1,000円で輸出 → シンガポール子会社(販売) → 1,500円で販売
【ステップ2:価格設定ルールを決めておく】
価格設定の“考え方のルール”を決めておくことが重要です。業種によって適正利幅は異なるため、必要に応じて専門家の確認を受けると安心です。
<例>
・海外子会社には仕入価格+10%を利益として残す
・製造委託は製造コスト+5%を手数料とする
 
【ステップ3:根拠資料を残しておく】
価格設定の根拠を示すため、契約書、見積書、第三者との取引データまたは業界比較データなどを保管します。後になって振り返りができるように普段から用意しておくとよいでしょう。

4.海外拠点をつくる段階で準備しておくと安心

リスク負担の程度が拠点の妥当な利益水準の判断基準になるため、拠点新設時には、在庫リスクや販売責任の所在を契約書に明記し、為替や原価変動などでの価格見直し条件もあらかじめ取り決めておくことが重要です。また、同業他社の利益率レンジを調べておくことで、“適正価格”を判断しやすくなります。

5.中小企業での現実的な進め方

すべてを専門家に依頼する必要はありません。取引の流れや簡易的な利益計算は社内で準備し、業界利益率の調査(ベンチマーク)を専門家に依頼するなど、役割分担をするとコストを抑えつつ十分な対応ができます。また、四半期ごとに子会社の利益率に異常がないことの確認をお勧めします。

6.まとめ

移転価格税制は“難しい税金の話”ではなく、価格に対して妥当性の説明責任を果たせるかどうかという極めて実務的なテーマです。海外展開が当たり前になる時代だからこそ、価格の決め方と根拠を整理しておくことで、安心して海外ビジネスを拡大していくことができます。

  
【執筆者紹介】
中尾  公(なかお こう) 
2024年中小企業診断士登録。米国・シンガポール・香港で13年の海外駐在経験を持ち、SE・PM・経営企画など幅広い業務を歴任。システムアナリストなど複数のIT資格を有し、企業内診断士として活動中。中小企業の海外展開やDX・AI活用を通じて経営全般の支援を実施している。