コラム

人的資本経営×人事制度で相乗効果を生み出す 〜自社の「人的資本の現在地」を可視化することから始めよう~
経営お役立ちコラム
25/11/30

■はじめに
人的資本経営が注目を集める中、「うちは大企業じゃないから関係ない」と感じる中小企業の経営者も多いのではないでしょうか。
人的資本経営の本質は「人を費用ではなく、価値を生み出す“資本”として捉える」という考え方です。“資本”とは、将来の価値創出につながる投資対象を指します。例えば教育投資や環境整備にコストをかけても、従業員のスキル向上・生産性改善・定着率向上というリターンが生まれれば、それは将来の企業成長に直結します。
本稿では、まず自社の「人的資本の現在地」を可視化する方法を整理したうえで、人事制度と掛け合わせることで生まれる相乗効果について解説します。

 

■自社の「人的資本の現在地」を把握する
大企業において人的資本の情報開示が進む一方、中小企業ではいまだ情報の「見える化」の段階にあります。人的資本経営における「見える化」とは、単に情報を集めることではなく、「人材への投資と成果のつながりを見出すための基礎データを整えること」を意味します。
具体例を挙げてみましょう。

 

(1)スキル・資格の一覧化
ある製造業では、社員の資格・経験・得意分野を一覧化しました。これは単なる棚卸ではありません。
・誰にどの業務を任せると最も効率的か
・どのスキルが不足しており、育成投資が必要か
・将来のリーダー候補は誰か

こういった意思決定がスピーディーになり、育成計画の精度が高まります。根拠のない「勘と経験の配置」から脱却し、投資とリターンの筋道が明確になるのです。

 

(2)「働きがい指数」の測定
サービス業では従業員アンケートから「働きがい指数」を算出し、組織の健康状態を数値で把握する取り組みも始まっています。これにより感覚に頼らず、組織の課題を可視化し、改善投資の優先順位を決められます。組織状態を数値で把握できるため、施策との因果を追いやすく、改善が継続しやすいです。
アンケートはGoogleフォームやMicrosoft Formsを活用すれば無料で実施でき、初期投資を抑えながら人の「見える化」を進めることが可能です。
作り方はGoogleWorkspaceラーニングセンターから確認ができます。
Google フォームで最初のフォームを作成する – Google Workspace ラーニング センター

 

■人事制度と掛け合わせることで生まれる相乗効果
中小企業の中には、「企業成長の源泉は人材にあり」という考えのもと、定期昇給や子供手当の導入、柔軟な勤務体制の整備など、働く環境の改善に取り組む企業があります。その結果、女性や若手を中心に採用が進む好事例も見られます。
さらに、新入社員教育や社内認定制度を通じて基礎スキルを明確化し、国家資格の取得支援やオンライン研修による成長支援を実施。加えて、キャリアコンサルタント面談を導入し、社員一人ひとりのキャリア自律を後押しします。
こうした一連の取り組みは、社員のエンゲージメント向上や生産性の改善、離職率の低下につながり、結果として企業の経営状態の向上に寄与しています。人的資本経営と人事制度を組み合わせることで、「働きやすさ」が「業績向上」へと転化する好循環を生み出しているのです。

 

■中小企業が取り組む第一歩
では、自社で人的資本経営取り組むにはどうすればよいでしょうか。
まずは「自社にとっての人的資本とは何か」を経営層で議論することから始めましょう。その上で、既存の人事制度に「人材育成」や「従業員体験(仕事を通じた成長・自己実現の体験)」の視点をひとつ加えるだけでも、経営に新しい風が吹きます。
たとえば、面談や評価の場で「今後どんな力を伸ばしたいか」を聞く質問を1つ加えるだけでも、人材育成の視点が加えることになります。人的資本経営は特別な仕組みではなく、日々の人事運用の中に根づく考え方です。

 

■最後に
人的資本経営は、中小企業にこそ真価を発揮します。少数精鋭だからこそ、一人ひとりの力を最大化することが企業成長の鍵となります。
まずは自社の「人的資本の現在地」を見える化することから始めることが、持続的な成長への第一歩です。人を活かし、企業を伸ばすための仕組みづくりに取り組んでみませんか。

 


<<執筆者>>

清野裕樹(せいのひろき)
中小企業診断士、PIROコンサルティング代表
人材業界で約15年以上にわたり、企業の採用・定着・教育、人事制度策定・外部労働力活用に従事。現在は、国家資格取得講座の講師業や補助金申請支援など、人材・経営支援の領域で活動している。