コラム
「今年も異常に暑かった」
2025年の夏も、国内外で猛暑や豪雨などの異常気象が相次ぎました。気候変動の影響は、もはや私たちの生活や事業活動から切り離せない現実です。毎年その影響が深刻化する中で、次の世代にどんな環境を残せるか――国や企業規模を問わず、今こそ一人ひとり、そして各企業が真剣に向き合うべき時期を迎えています。
■ 欧米を中心に進むサステナビリティの潮流
海外では環境や人権に配慮した持続可能な事業活動(サステナビリティ)を促進する法整備が進んでいます。例えば欧州では「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)※1」が施行され、2025年時点では、EU域内外の大企業を中心に、環境負荷や人権対応などの情報開示が義務化されていて、対象範囲も段階的に拡大されつつあります。
米国でも、証券取引委員会(SEC)※2が気候リスクや温室効果ガス排出量の開示を求める方向で動いており、こうした情報開示への取り組みは、投資家や取引先が企業を評価・選定する際の重要な判断基準となりつつあります。
■ 日本でも進む制度整備とサプライチェーンへの波及
日本も同様に、制度整備が進み始めています。2023年には金融庁が有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方および取組」の記載欄を新設し、上場企業に対してサステナビリティ情報開示を義務化しました。
こうした動きは大企業に留まりません。原材料の調達から生産、出荷、納品まで、サプライチェーンの“繋がり”の中で、取引先や協力会社など中小企業にも、サステナブルな取り組みが求められる時代が到来しつつあります。
環境変化が激しくサプライチェーン全体にも影響を及ぼす時代だからこそ、各企業が「モノと情報の流れ」などのフロー図を描いて「見える化」し、ボトルネックや課題を見つけて、協力企業と連携して最適化することが重要となっています。
今回は、地域の事業者同士が協力しあい、サステナブルな取り組みを実践している好例として、東京都台東区・蔵前で進められている「KURAMAEモデル」をご紹介します。
■ KURAMAEモデル ― 「いらないものを、誰かのほしいに」
蔵前を舞台に始まった「KURAMAEモデル」は、“いらないものを、誰かのほしいに”を合言葉に、地域の廃棄資源や副産物を回収・加工し、アップサイクルや資源循環に取り組む地域共生型プロジェクト(図1)です。
例えば、テスト焙煎のコーヒー豆や残ったパンの耳を副原料として「蔵前ビール」を製造したり、各店舗から出る生ごみや調理端材をコンポスト化して地域に還元したりするなど、小さな店が繋がりながら地域全体でサステナブルなサプライチェーンを築いています。

(図1)KURAMAE モデルイメージ図
出典:KURAMAEモデル 公式サイト( https://kuramae-model.org/)
この取り組みから生まれた「下町そぞろめぐり」は、蔵前商店街と浅草見附会の協力のもと開催される、スタンプラリー形式の地域イベントです。第4回目となる2025年は、地球や地域にやさしい取り組み基準をクリアした約80の企業・店舗が参加しています。そして、20名以上の中小企業診断士がチラシ作成や紹介記事づくりなどを通じ、社会貢献活動の一環として、地域活性化に貢献しています。
「国内外を問わず一人でも多くの方に知ってもらいたい」
そんな思いを胸に、私も3年前からこのプロジェクトに参加し、取材活動や運営のお手伝いをしております。小規模事業者や学校、福祉施設などがやさしく繋がるこの仕組みは、地域循環型経済の好例として注目を集めています。
■ 「見える化」から始めるサステナブル思考のSCM(サプライチェーンマネージメント)
製造業や小売業におけるサステナビリティの基本に、廃棄ロスの削減があります。過剰在庫や無駄な在庫は資金を圧迫するだけでなく、保管や廃棄時に環境負荷を生みます。
この課題解決の第一歩となるのが、モノと情報の流れに関してフロー図を描いていくこと(図2)です。

(図2)モノと情報のフローイメージ図
(出典:筆者作成)
原材料の調達から製品出荷までの流れを描き、工程ごとの滞留や在庫の偏りを「見える化」することで、ボトルネックを特定していきます。情報の流れは点線、モノの流れは実線など、共通ルールを設けて描くことで、部門を超えて会社全体で問題や改善すべき課題を共有しやすくなります。こうした見える化の積み重ねが、持続可能な供給体制づくりの出発点となると考えております。
■ まとめ
サステナブル思考のサプライチェーンマネージメントは、未来への投資であります。目まぐるしく変化する環境や経済・社会の中で、環境と社会にやさしい仕組み作りに早期から取り組むことは、自社の信頼と競争力の向上に繋がると考えます。
まずは自社の現状を「見える化」することから始めるのはいかがでしょうか?その上で、 「小さな企業同士がネットワークを理解しあい協業する」その積み重ねが、次世代へ繋がるやさしい社会を築いていく第一歩になると考えます。
※1)CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)
企業の環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に関する情報開示を、より詳細かつ統一的な基準で義務化するEUの指令。全加盟国の上場企業などを対象としています。
※2)米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)は、アメリカ合衆国における証券市場を監督・規制する連邦政府機関です。
【執筆者紹介】
志村 昌子(しむら まさこ)
東京都中小企業診断士協会 城南支部所属。長年、外資系電子部品メーカー及びパーソナルケア製品メーカーにおけるグローバルサプライチェーンマネージメントの需給計画、生産計画、SCM企画等に携わる。知見を活かし、製造業、小売業、商店街等で生産性向上や業務改善の支援を行っている。