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「解は経営者の中に」―還暦のマラソン診断士・上野会員が到達した境地―

人生100年時代――。セカンドキャリアの可能性を中小企業診断士に見出されている方も多いと思います。今回インタビューした上野洋一郎さんもその一人でした。2019年に56歳で試験合格し58歳で診断士登録。そして会社を早期退職し59歳で独立開業。登録から開業まで、すべてコロナ禍での決断でした。現在、仕事の傍ら城南支部で2期目のチューターも務めていらっしゃいます。何が上野さんを突き動かしているのか。その秘密に迫ります。

■会社員時代
 大学を卒業後、本田技研工業に入社された上野さんは、27歳のときニュージーランドに赴任したのを皮切りに、会社生活の大半を海外営業畑で過ごしてこられました。海外畑は希望だったそうです。その後の任地はタイ、アメリカ、マレーシア、インドと、5か国のべ17年間の海外駐在を経験。マレーシアとインドでは現地責任者も務めました。
 海外で仕事以外に手に入れたものの一つが、趣味のマラソンでした。40代のロサンゼルス駐在時代に「ダイエットのため」始めたマラソンで、気分がリフレッシュできることに気づき病みつきになったとか。会社を退職した後は、「時間が出来たので、マラソンとシナジーがあるかな」と思って始めた山登りと併せ、走ることと登ることが現在の上野さんの元気の素。孤独を楽しめるのが上野さんの“強み”とお見受けしました。

■中小企業診断士を目指したきっかけ
インドから帰ったのが2016年、55歳のとき。着任した部署は、ベンチャー企業などとコラボして新商品開発などを行う新規事業部でした。そこで「新興企業や中小企業の経営者に触れる機会が増えた中で、中小企業診断士という資格を初めて知った」とか。「調べたら、我々の世代で引退後に資格を活用している人が多いことを知り、『海外経験も活かせて面白そう』とチェレンジした」のがきっかけだそうです。折しも会社では当時、セカンドキャリア研修なども受けていたそうで、そんないくつかの偶然が上野さんを診断士へと導いたのかもしれません。

■一発合格とコロナ禍と…
 「経営情報システムとか企業法務とか、暗記科目は根気が続かなくて大変でした」と謙遜する上野さんですが、試験は1次2次通しての一発合格だったそうです。しかも予備校に通うのではなく通信教育一本で。このあたりも孤高のマラソンランナーと通じるものがありそうです。
順調だった上野さんが苦しんだのは、実は合格してからでした。2020年、コロナ禍が全世界を席巻します。東京協会のスプリングフォーラムは中止になり、城南支部の新緑フェスティバルもオンライン開催になるなど、「新人をサポートするイベントが軒並み中止やオンライン開催のみになり、どうしていいかわからなかった」と当時を振り返る上野さん。
またコロナ直前に実務補習を1回受けていたものの、「コロナ対応で在宅勤務が始まるなど、担当部門の業務を維持するために結構忙しくなって」、その年は実務補習も受けられませんでした。翌年の春と夏に2回の実務補習を受けて、晴れて2021年9月に診断士登録されました。

■転機は城南コンサル塾
 そんな上野さんに転機が訪れます。2回目の実務補習の指導員だった松副支部長から城南コンサル塾の存在を教わったそうです。各支部のプロコン塾の説明を一通り聞いた上で、一番厳しいけど身につくと評判の城南コンサル塾に「やるなら多少厳しくとも身につく方がいい」と思い切って参加を決意。結果的にそれが転機になったと言います。「宿題や課題がたくさん出るようなスタイルの与えられる厳しさというよりは、優秀で前向きでスキルを高めたいという意欲的な方たちに刺激されて切磋琢磨する、それで自分も一生懸命にやってしまうところ」が城南コンサル塾の厳しさの特徴だそうです。「コロナで診断士活動をどうスタートすればいいのか手掛かりがつかめない中で、城南コンサル塾で自らに負荷をかけて勉強することで、不安を忘れられた」。ここにも自らへの負荷を楽しむ上野さんの姿がありました。そしていま、同塾の事務局としても活動されている上野さん。「コンサル塾に行っていなかったらどうなっていただろう」と目を細めます。
 診断士活動の現状については、「まだ駆け出し」としながら、「忙しい時とそうでない時と非常にムラがある」と自己分析。「いったん何かやっているときは時間なくずっとやっている。補助金や経営革新計画の仕事をしているときは画を描くのと同じで、時間をかけようと思えばいくらでもかけられるし、生産性やオンとオフの切り替えが課題」と言います。「それも経験を積んでいく中でだんだんと見えてくると思うんですよね」。

■2期目に入ったチューター活動
 時間管理に課題ありとする上野さんですが、一方で城南支部のチューターとしても活躍されています。その活動も現在2期目に入りました。
Qなぜ2期目も?
「秋から入会した会員向けに一番遅くスタートしたチューターグループを担当したので。スタートした時期は12月かな。(1期目は)3か月間だけでした」
「城南支部に入った時、私もチューター制度に参加させていただいてすごくよくしていただいたんですよね。フランクに自分の困りごととか相談できたのは、特に最初の一年間、(コロナ禍の中で)不安な気持ちで過ごしたので、非常にありがたく、いい制度だなと思いました」
「もう一つは、資格を取って2年目、3年目となった時に、初心を忘れフレッシュさがなくなってくるけど、新しく入って来られた方と話していると、自分が合格した時や頑張っていた時のことを思い出すんですよね。逆に自分が学ぶ部分が多かったので」。
 2期目の今は、「皆さん本業との両立とか悩みや不安に思っていることが似ているし、一方で自分はついこの間まで同じ立場だったから、入って来られた方の気持ちもわかるし、勘どころもわかる。非常にユニークな人もいて刺激にもなりますよ」。ここでもチューターとしての“恩送り”を楽しんでいる様子が垣間見えました。

■思わず“刮目”—診断士の醍醐味
 どんなことも楽しみに変えてしまう上野さんに、診断士の魅力について伺いました。「会社に在籍していた時代も取引先や金融機関、保険会社などいろんな方にお会いした。しかし診断士になってお会いするのは、それとは比較にならないくらい年齢もバックグラウンドも多様な方々です。しかも対等な立場でいろいろな人と交流できるのは、本当に診断士の醍醐味ですね。全員、刮目するって感じです」と目を輝かせます。
Q刮目、ですか?
「中小企業の経営者の皆さんは、自分とは全く違った人生を送ってこられた方々で、魅力的な方が多いですね。そういう方々の生き方に接することができるのも診断士の醍醐味の一つです」。
 そこで診断士としてのやりがいを尋ねると、「単にコンサルタントとして提案するだけじゃなく、会社の悩みや困りごとをきちっと理解した上でいかに経営者の共感を得ていくか。そのプロセスが診断士の醍醐味じゃないでしょうか」。どんな出会いにも楽しさを見出し、発見や喜び、そして学びをも得てしまう。上野さんが面目躍如する姿がそこにありました。

■「解は経営者の中にあり」
 診断士活動に向き合う上野さんの姿勢が如実に表れているのが次の言葉です。
「解は経営者の中にあり」——。診断士として大切にしていることを尋ねた際に帰ってきた言葉です。「会社のことはもちろん、業界のことも技術のことも経営者の方がはるかに詳しいわけです。本人が意識しているいないにかかわらず、経営者の頭の中にあることを引き出していくことが我々の仕事じゃないかな」。「解決策と言っても一つじゃないと思うんですよ。やはり経営者のバックグラウンドとか信念、そういうものに根差した解決策じゃないと実際の実行につながらないと思うんです」。「会社だと上下関係である程度押し切れるかもしれないけど、我々はあくまで対等の関係で経営者と一緒に解を探していく立場ですから」。あくまでも伴走者に徹した姿勢は、どこかマラソンランナーにも通じます。

■後輩診断士へのメッセージ:「資格は貴重な“チケット”」
 最後に、これから中小企業診断士として活動する方たちへのメッセージをいただきました。「私はまだ限られた仕事しか経験していないけど」と断りつつ、「中小企業って会社の数からいって日本の主流。身の回りの生活に関わるものから宇宙産業の部品を作る会社まで、本当に幅が広いと思います。中小企業診断士という資格は、そんな幅の広い仕事に関われる“貴重なチケット”だと思うんです。資格を取ってどうしていいかわからない方も多いと思いますが、その可能性にぜひ着目して、資格を生かすご自身の道を探していっていただけるといいなと思います」。

■編集後記
インタビューした11月中旬は、上野さんが出場された富山マラソンの直後でした。実は、マラソンコースの沿道にわが実家はあります。そんなことにご縁を感じながらの楽しいひと時でした。上野さんのお人柄が伝われば幸いです。

【紹介】
〇上野 洋一郎(うえの よういちろう)プロフィール
独立診断士。2021年診断士登録。本田技研工業(株)では5か国のべ17年間の海外駐在を経験。補助金申請や経営革新支援を得意とし、伴走型支援が理想。一昨年、城南コンサル塾(17期)を卒塾。同塾事務局を務める傍ら、2期連続で城南支部チューターとしても活躍。

〇筆者:田畑 正(たばた ただし)プロフィール
独立診断士。2023年診断士登録。昨年定年退職したテレビ局で政治記者を長年務めた。世田谷在住。城南プログラムとチューター制度に興味を持ち、城南支部に所属。

23/12/03 11:40 | 投稿者:青年部

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