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グローバルサプライチェーンマネジメント ~今 北極が “熱い”!~

グリーンランドを売ってくれ!
皆さんはトランプ大統領が「グリーンランドを売ってくれ」と発言して話題になったことをご存じでしょうか?トランプ大統領は大統領就任1期目の2019年に初めてグリーンランドを購入する意向を示しました。2025年1月にはさらに踏み込み、経済力や軍事力によるグリーンランド支配の可能性も否定しないとの発言をしました。これらの発言について、物流関係者の間では、国際物流の幹線をなす国際コンテナ航路の観点から見て、非常に関心の高い発言として受け止められました。
 
 
スエズ運河を通る「欧州航路」は問題が多い
世界の航路を見た場合、最も物量が多いのは北米とアジアを結ぶ北米航路と、欧州とアジアを結ぶ欧州航路です。北米航路は、パナマ運河を経由してアメリカ東岸に向かう航路で、パナマ運河の水不足により、運河を通過する船舶数を捌ききれないことが問題となっています。

しかし、特に問題が多いのは「欧州航路」です。
例えば、マラッカ海峡や紅海の海賊問題や、スエズ運河の地勢的・地政学的問題(運河を通行する船舶数の制限・フーシ派による攻撃)などが挙げられます。スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰経由という南回りの選択肢もありますが、航海日数が10日近く余分にかかってしまいます。
 
 
 
 
 
北極を使う航路で大幅な距離短縮が可能
そこで今脚光を浴びているのが、北極を使った北回りルートです。北米航路と欧州航路に新たに加わる“第三の大動脈海路”との呼び声もあります。ルート的には、日本の東側を通り北上した後に、左側に進み欧州に向かう「北東航路」と、右側に進みグリーンランドを通りアメリカに向かう「北西航路」があります。普段私たちは平面の地球地図しか見ていないので、実は北極回りが輸送ルートとしては非常に効率的なことに意外と気づかないものですよね。 

航路距離を比較すると、現状の欧州航路・北米航路に比べ3~4割近く距離短縮になります。具体的には欧州航路は約19,000kmが約13,000kmに、北米航路は約20,000kmが約13,000kmへと短縮となります。それに伴い航海日数も大幅に減少となります。
 

課題は多いが実用化が進行中
もちろん北回りルートの実用化は簡単ではありません。なんといっても北極は氷で閉ざされているので、通年での利用は現状不可能で、氷が融ける夏の期間に限られます。自然環境のリスクとしては他にも氷山や流氷との衝突、インフラ的には港湾や補給施設が無いこと、そして特に、国際的な領海や主権の問題があります。
しかし、世界最大の海運会社であるデンマークのマースク社が2018年に北東航路の航行に成功しています。試験的な航海も成功しており、商業ベースの航路として実現に向けて確実に進んでいます。

攻めの北極ルートが今“熱い”!
グローバルサプライチェーンの観点では、地勢的・地政学的問題等の発生により、事後対応のBCP対策の一つとして、普段使っているルートと異なる迂回ルートを使うことがよくあります。フーシ派の攻撃や航行制限によりスエズ運河経由ではなく、南アフリカの喜望峰回りを使う対応は典型的な事後対応のBCP対策です。
しかし北極ルートは、距離と航行日数の大幅短縮に繋がり、海峡や運河の地勢的な問題や海賊や過激派等の地政学的問題の心配がないため、迂回ルートとしてだけではなく、「攻め」の輸送ルートとして、今後の活用が期待できる“熱い”ルートです。
皆さんも、地球地図をさまざまな角度から見直すことで、自社に適した最適な物流ルートを検討してみてはいかがでしょうか?

【筆者紹介】

髙田 浩一郎(たかた こういちろう)
総合物流企業に30年以上勤務。国際航空貨物、国際海運貨物などの幅広い業務に従事。現在は物流企業を中心によろず支援を行っている。
2023年5月中小企業診断士登録、運行管理者、国際航空貨物取扱士、中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー(物流)

25/04/10 00:00 | 投稿者:国際部

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