各種報告
展示会を活用した伝統工芸産業の海外展開

1. 伝統工芸産業の今
日本の伝統工芸品(図表1)は、卓越した技術と美しいデザインから国内外で高く評価されています。しかし、国が指定する「伝統工芸品(241品目)」の生産額は、2020年度に870億円と、1980年度のピーク時と比較して8割減少しています(出所:2024年5月6日付 日本経済新聞)。この状況を改善するための一手段として、国・自治体は海外需要取り込みを支援しています。

2. 伝統工芸産業における海外需要取り込みの方法
伝統工芸品の海外需要取り込みには、リアルでは展示会・催事・常設店・体験会、デジタルではホームページ・SNS・YouTube・越境ECの活用があります。さらに、これらを総合的に組み合わせた売れるための導線設計が重要となります。ここでは特に効果の高い展示会活用について説明します。

3. 展示会の活用の前に検討したいこと
漫然と展示会に出展しても何も得られない可能性が高いため、出展にあたっては、以下の点を明確にする必要があります。
・作家として少数の作品を海外展開したいのか、雑貨として大量の商品を展開したいのか、その間なのか。
・大量の商品を展開したい場合、それに見合った生産体制を構築できるか。
・どの地域を狙うか。
・得たい成果は何か。例えば、ディストリビューターとの契約を目指すのか、現地の声を聴いて今後のマーケティングに活かせれば満足なのか。

4. 海外需要の取り込みに効果のある展示会
展示会には一般顧客を対象にしたものと、バイヤーなどのプロを対象にしたものがあります。ここでは、ディストリビューターとの契約を目指し、プロのバイヤーを対象とした展示会を紹介します(図表2)。

5. 展示会における情報発信の設計
展示会はただ出展するだけではなく、展示会前後の情報発信が重要です。以下の方法が効果的です。

・プレスリリース
来場者は事前にプレスリリースをチェックし、訪れるブースを決定します。もしバイヤーの目に留まれば、来場してくれる可能性が高まります。

・SNS
特にインスタグラム。ブースで接点をもったバイヤーに継続的に情報を発信することで、興味が醸成される可能性があります。

・自社ホームページ
バイヤーは、引き合いを出す前に、必ず対象業者のホームページをチェックします。会社概況だけでなく、職人の技術や製品のストーリーを伝えるコンテンツが必要となります。
展示会の出展ブースには自社ホームページアドレスとインスタグラムアドレスにつながるQRコードを記載したカードの用意が必須です。

6. 展示会出展時に活用できる国・自治体・公的機関の支援策
伝統工芸事業者が最初から単独で展示会に臨むのは難しい場合があります。国・自治体・公的機関の支援策を利用することで費用・ノウハウを補えます。例えば以下の支援策があります。

・新規輸出1万者支援プログラム(日本貿易振興機構/JETRO)
 新たに輸出に挑戦する事業者に対して、専門家による事前相談、費用補助、輸出商社とのマッチングなどを一気通貫で支援する制度。

・Buy TOKYO推進活動支援事業(東京都産業労働局)
東京都内の中小企業者等が東京都産品の販売やPR活動を実施する際に、専門家による支援や経費の補助等を行う制度。

・「東京手仕事」プロジェクト(東京都中小企業振興公社)
 東京の伝統工芸品産業活性化を目的に、展示会への出展やプロモーション、マーケティング支援等を行う制度。

7. 事例(株式会社イワタ木工)
「けん玉」の発祥地・広島県廿日市市の企業である株式会社イワタ木工は、JETRO広島の紹介で、インテリア・デザイン業界の最高峰とも言われるフランス・パリの見本市「Maison & Objet」の出展を目指すことを決意しました。出展にあたりJETRO専門家とともに製品のブランド化に注力しました。コンセプトの整理から始まり、既存ラインナップの見直し、デザイン性の高いカラー選定、パッケージの改良、さらに、自社のイメージを限られた空間の中でいかに最大限表現することに腐心しました。プレスリリース、SNS、自社ホームページでの発信についても取り組みました。「Maison & Objet」の会期中、ブースには欧州の大手百貨店や有名ブランド、ミュージアムショップ関係者らが多数立ち寄り、実際に「けん玉」を手に取ってもらうことで、品質の高さが認められて、受注獲得につながりました。「Maison & Objet」出展を契機にスイスのブランド・フランクミュラーとのコラボレーションによる「けん玉」制作も実現しています。

8. まとめ
伝統工芸産業は日本の文化であり、次世代に伝えていく必要があります。そのためには、海外需要取り込みが有効な策のひとつになるでしょう。まずは、支援策を活用した展示会出展について、検討してみてはいかがでしょうか。

【筆者紹介】

北谷康生(きたたに やすき)
中小企業診断士(2001年登録)、貿易アドバイザー
東証一部上場メーカーで、計15か国の顧客に対する営業・マーケティングに携わった後、海外生産販売現地法人の、立ち上げ、及び、社長を経験。
起業家向けビジネスクールでのコンサルタントを経て、現在は公的機関で伝統工芸の販路開拓を支援している。

24/09/10 00:00 | 投稿者:国際部

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