各種報告
信用状ではじめる輸出取引

現在は空前(?)の円安。日本の国力が低下したなど、いろいろ言われていますが、輸出にとっては絶好のチャンス。国内で売るよりも高い利益が期待できる環境だと前向きに捉えたいところです。

ところが、いざ輸出となるとゼロから販売先を見つける必要がある上に、言葉や商習慣の壁、許認可、通関・為替といった煩雑な貿易実務の手続きもあるため、無事に販売代金を回収できるのかなど、どうしても心理的なハードルが高いのも事実。

そんな時は経験豊かな中小企業診断士に相談してもらえれば・・・と、宣伝はさておき、今回は、中でも、輸出取引における代金回収の不安解消策についてお話をします。

信用状取引
販売先も見つかり、晴れて船積みとなったのはよいのですが、販売先が突然倒産したとか、代金を払ってもらえないというような事故は、海外との取引では起こりがちです。相手をどこまで信用してよいものか、言葉が通じない遠く離れた海外の販売先の場合、とても困ってしまうのではないでしょうか。

そのようなときに、検討していただきたいのが信用状(以下、L/C)取引という決済手段です。L/CとはLetter of creditの略称で、発行銀行が支払を確約してくれるというものです。仕組みは、海外の顧客(販売先)が銀行に対してL/Cの発行を依頼して、銀行がこの販売先が信用できると判断すれば(販売先の信用力が足りない場合、銀行に保証金を積むケースや断られるケースもある)、L/Cが発行され、輸出者は船積み完了後、要求される書類をきちんと用意すれば支払が保証されるというものです。

輸出者にとっては代金回収が確実になるというメリットがあります。一方、販売先にとっても銀行によって信用の補完がなされて取引が成立できること、また、船積みがきちんと完了しないと銀行は送金しないので、前払いと違い、お金だけ取られるというリスクがないというメリットがあります。

私は、総合商社で長年にわたり貿易に関わっていますが、「決済の基本はL/C」という教育を受けてきました。中小企業の取引では金額が小さいので、L/Cはそれほど一般的ではないと思っていましたが、海外向け輸送業者にお話を伺うと、初めての取引で相手の信用状況がわからないときなどは、少額の取引でもL/Cを使っているケースはよく見かけるとのことです。

ただ、この便利なL/Cも良いことばかりではなく、送金に比べて手数料が高い、手続がやや複雑、書類の不備などにより決済が遅れる可能性、といったデメリットもあるため、注意も必要です。

<L/Cのイメージ>

出典:筆者作成

発行銀行、代金受取人、商品名、数量、金額、発行人依頼者(輸入者)名、船積期限、決済条件、船積日、船積書類の種類などが記載されています。L/Cが取消不能(輸出者に通知せずに発行銀行が内容を変更できないこと)になっているか、条件が売買契約書と一致しているか、不利な条件が付けられていないか、信用できる銀行が発行しているか、といったことがチェックポイントになります。

信用保険の活用
ところで、販売先が決済条件としてL/C取引に合意しないケースや、銀行が引き受けてくれないケースなども出てきます。このような場合は、上述の通り、「決済の基本はL/C」ですので、信用状況がよくわからない初めての顧客であれば取引は泣く泣く断念するか、リスクを認識した上で、取引をするかを判断することになります。

後者の場合、信用保険の活用を検討するとよいでしょう。相手の信用状態にもよりますが、販売代金の2~3%程度の料率で、販売代金の90%程度を保険でカバーすることが可能です。保険を付保できても販売代金の100%は戻ってきませんが、リスクは大きく減らすことができます。ここでのポイントは、保険会社が引き受けてくれるかどうかということです。保険会社が引き受けてくれるということは、相応に信用力のある販売先であるということになりますが、仮に引き受けてくれないということであれば、かなりリスクの高い販売先ということになります。その場合はいくら取引条件がよくて儲かりそうな商売でも断念することをお勧めします。信用力のない販売先は“よい条件”を提示することで取引を成立させようとするわけで、取引条件は信用リスクとの裏表の関係になっているわけです。

終わりに
東南アジアの初見の顧客向け輸出取引で、船積後に大幅な値下げ要求をしてくるという事例がありました。送り返すと費用がかさむため泣く泣く値引きに応じて損失を被るという結果となりました。この場合、L/Cを使っていれば解決できたはずです。このような場面に遭遇したときは、L/Cの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

【筆者紹介】

片岡央幸(かたおかひろゆき)
総合商社で化学品営業の輸出入/国内営業、新規事業開発に携わる。事業部長として海外M&A、PMIを主導、社外取締役として海外企業の経営に関わる。事業再生ファンドの共同代表として中小企業の再生現場も経験。米国(フィラデルフィア)、インドネシア(ジャカルタ)に駐在経験。

中小企業診断士(2017年登録)
ペンシルバニア大学ウォートンスクール/MBA
東京大学教養学部基礎科学科卒
TOEIC(L&R) 990、愛媛県出身

24/07/10 00:00 | 投稿者:国際部

返信


返信する

コメントを投稿するにはログインしてください。


このページの先頭へ戻る