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中国で商売する上での3つの留意点

最近の政治状況では日中関係が冷え込んでおり、ビジネスにおいてもカントリーリスクの存在が意識されてきていることは否定できません。しかしながら、一方で、人口14億人を擁する中国市場の魅力が相変わらず存在することも否定できない事実です。また、円安の為替動向による追い風もあり、日本からの輸出が有利になっている状況もあります。

こうした逆風もある状況下ではありますが、中国で商売をしたい、中国への輸出で販路開拓したい、といったニーズは依然としてあろうかと思います。

今回は、そういった中国での商売を検討しようと考えておられる方に向けて、筆者の6年間の中国駐在経験を踏まえて、中国の方々との接し方、心構えについてお話させていただこうと思います。

日本に居ると、ニュースで取り上げられるのは、事件や政治の話題が中心となり、良い普通の事はニュースとして報道されないため、どちらかと言うと悪い印象のニュースに接する機会が多くなります。これは逆に中国の人々にも同じ状況があり、日本の悪いニュースに接する機会が多くなりがちになります。

私が中国に赴任して間もなく、2012年に尖閣諸島問題の影響で日中関係が険悪になり、中国の主要都市で日本叩きのデモ行進が行われ、日系の商店のウインドーガラスが打ち壊されるなどの被害を受けたことがありました。私はちょうど現地のアパートの窓越しに目撃していましたが、これらの暴力行為は統制下での一時的なものでした。一方で、一般市民は日本製の製品・商品に対して絶大なる信頼を寄せており、コロナ禍前は日本への旅行者が押し寄せ、爆買いして帰るという現象が見られ、インバウンド需要で我々が潤った経験は記憶に新しいところです。
このように、政治の建前の世界と経済・商売の実業の世界は完全には切り離せずに少なからず影響を受けるものの、基本的にそれぞれ別の論理で動いているということに留意が必要です。

私の6年間の中国駐在経験に基づくものなので、必ずしも当てはまらない場合があるかもしれませんが、皆さんのご参考になればと思い、私が感じたり体験したりした中国での商売を行うにあたっての3つの留意点をご紹介します。

(1)謙虚な気持ちで
もう10年以上前の話にはなりますが、私が中国に赴任して最初に私の大先輩である中国での勤務経験豊富な上司の総経理(社長)からまず言われた言葉が、「私たちは中国で商売をさせていただいているという謙虚な気持ちを常に忘れないこと」、「私たちは技術や作り方を教える立場にあるため、得てして自分の方が偉いと思い込み、教えてやっているとの態度を取りがちになるが、あくまでお互いは対等な関係であることをよく認識して接すること」でした。この心構えについて、当時なるほどと思ったのか、いまでも鮮明に記憶しています。そして、その後の赴任中ずっとその教えを忠実に心掛けてきました。

当地の皆さんはプライドを持っておられ、プライドを傷つけられることに敏感に反応されますので、まずは「中国で商売をさせていただいているという謙虚な気持ちを常に忘れないこと」という私が上司からもらった言葉をお贈りします。

(2)先入観で判断しない
私たちは、外国人と接する時に、肌の色や一般に言われている国民性のイメージで、怖いと思ったり、性格を決めつけてしまったりしがちです。逆に、我々日本人も同様に色眼鏡で見られているかもしれません。「国民性」という言葉で一絡げにして判断してしまうことは危険です。マクロで見たある程度の傾向は有り得るのかもしれませんが、ミクロで見た個人ベースでは、必ずしも当たらない場合が多いという事実があります。中には仕事をサボろうとしたり、ズルをしたりする人もいるかもしれませんが、真面目で誠実に一生懸命仕事に打ち込もうとする人も当然ながら居ます。私がこれまで接してきた人達は、むしろ真面目で前向きに取り組む人が多い印象があります。まあ、そういう人達を採用してきたという側面もありますが・・・。

翻って我々日本人であっても、結局個人の性格、育ってきた環境などによってさまざまであり、個人差がかなりありますし、この事情は他国でもあまり変わらないということだと思います。たとえば、「関西人だから必ず話し上手で必ず話にオチをつけて面白い話をするものだ」というのも決めつけであり、そうでない人も多く存在するのと同じだと思います。なので、一把一絡げの一般論で決めつけないで、個々の人間の性格や人柄をよく見て接するということが大切になります。

(3)ビジネスは信頼関係構築(友人として認知)から、そして交渉は即決が必要
中国での勤務先は合弁会社でしたので、現地パートナーの経営のやり方を見てきましたので、その特長として私が感じたことをお伝えします。

まず、総経理(社長)の指導力、トップダウンによる意思決定が速いことが挙げられます。人の意見を聞かないということではなく、意見を聞いたうえで社長の決断が速いということです。これは、日本の中小企業での経営スタイルと似たところがあるのかもしれません。

ビジネスの交渉の場では、決定権限を持った人が出てきます。日本だと、営業部長など決定権限を持たされていない人が交渉を担当することがあり、社長の了解を取らないと決められないため、「一旦持ち帰って後日あらためて回答させていただきます」となってしまうことが、あるあるだと思います。しかし、これでは当地では相手にされません。基本的に即決を求められます。

交渉の場で決着がつかなかった場合でも、その後に懇親会が設定されることがよくあります。日本だと商売の売り手が買い手に対して接待するのが一般的(お客様は神様)ですが、当地では通常、客人をもてなすということで、訪問を受けた側(開催地の地元側)が懇親会を主催して費用も全額持つのがしきたりとなっています。日本のように割り勘にするという発想はありえません。なので、逆にお客様やサプライヤーが当方の地元を訪問してくれた時には、どちらも当方が懇親会を開催しておもてなしすることが必要になります。

こうした懇親会を通じて白酒(ウォッカのような中国のアルコール度数の高い透明の蒸留酒)を盃で乾杯する、すなわち盃が乾くまで飲み干して盃を逆さにして飲み干したことをアピールします。これをお互い繰り返し、酌み交わします。酒を酌み交わすことで、朋友(友人)として認めてもらい商売相手として認めてもらえるようになります。

また、この懇親会に於いて交渉の続きが行われることもあり、その場で決断を迫られる、決断したらまた乾杯して握手するという感じです。とにかく、しばしば即決を求められますので、覚悟して交渉に臨む必要があります。

以上、皆様のご参考になれば幸いです。

【筆者紹介】

富永周一郎(とみながしゅういちろう)
メーカーで 経理 約25年、内部監査 約10年の業務経験。中国の現地法人設⽴/管理業務構築をはじめ、経営計画の策定、業務効率化・有効性改善の提言コンサルティングの経験豊富。2022年10月中小企業診断士登録。

24/01/09 15:43 | 投稿者:国際部

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