各種報告
為替変動リスクヘッジの知識を味方に、国際化の波に乗る

押し寄せる国際化の波
 コロナ禍が終息した今、外国人観光客の対応に追われる企業や、新たな市場を求めて海外進出を検討する企業など、多くの企業が改めて国際化について考え始めているのではないでしょうか。「自分たちには関係ない」ということは恐らくなく、コロナ禍で利用機会が増えたZoomやSlackなどのサービスは、海外からのサービス輸入であるという点で、実は国際化の影響を受けていると思います。

 このように、大なり小なり日本の企業は国際化の波の中にいます。そして、輸出入の動向(図表1)を見ても、輸出入は右肩上がりで拡大していて、今後さらに国際化の波は大きくなることが予想できます。
そこで、今回は、国際化を考える上で、誰もが避けて通れない「為替変動リスクヘッジ」について、お話したいと思います。

図表1

(出所)財務省貿易統計 最近の輸出入動向 輸出入額及び差引額の推移(1950~2021年)

為替相場予想の難しさ
 「海外との取引を拡大していきたいが、為替変動リスクがネックだ」というのは、よく聞く話です。しかも、1年前には想像していなかった1ドル=150円(図表2)に到達した事態を受けて、今後、160円を目指してさらに円安が進むのか? それとも130円を目指して円高が進むのか? 見通しも不透明なので、企業は為替の相場動向を日々チェックしながら、海外との取引をすることになり、中には、心も休まらないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 私は仕事柄、「6か月後、1ドルいくらになると思う?」というような質問をよく受けます。そして、「そうですね、円安だとは思いますが…」と答えた次の日から突然円高に動き始めて、青ざめたという経験を何度もしています。プロであるアナリストの予想を見ても、人によって見解はさまざまなので、為替相場の予想がいかに難しいかが分かります。

図表2
東京市場 ドル・円 スポット 中心相場 推移

(出所)日本銀行 時系列統計データ 検索サイト

為替変動リスクヘッジの基礎知識
 当然ながら、企業は為替相場見通しを的中させることが本業ではないので、できるだけ為替変動リスクの影響を抑えながら海外との取引を行うことを考えていきたいものですよね。

 そこで、主な為替変動リスクヘッジ手法を紹介したいと思います。

【マリーの活用】
 取引通貨は、円建またはUSD建で取引できるのがよいと思います。

 まず、円建とするメリットは、言うまでもなく為替変動リスクから解放される点です。しかし、取引の相手方との交渉において、一般的に円建での取引を勝ち取ることは簡単ではないとは思います。

 そこで、次に、USD建での取引を交渉したいです。USD建とするメリットは、国際取引で最も使用される通貨なので相場が比較的安定しており取引の相手方も交渉に応じやすい点や、マリーができれば為替リスク軽減につなげられるという点です。マリーとは、同一通貨の債権と債務を組み合わせる(マリー)ことを言います。例えば、USD建の輸入と輸出の取引があれば、輸出取引で得たUSDをUSD預金として保有し、輸入取引に活用すれば、一定の為替変動リスク軽減効果を発揮できるというわけです。

【為替予約の活用】
 マリーを検討することが難しい場合(同一通貨の債権と債務が無い場合など)には、為替予約の活用を検討するのがよいと思います。為替予約とは、将来のある時点における、通貨の売買額と売買レートを、金融機関とあらかじめ取り決める取引です。

 例えば、現在の為替相場が1ドル=150円で、10万ドルの製品を輸出し、3か月後に販売代金を回収する場合、3か月先まで、円建での売上高が確定しません。そこで、金融機関と、3か月先に10万ドルを売却して円を1ドル=140円で購入するという取り決めを行うというのが、為替予約取引です。こうすれば、現時点で、3か月先の円建での売上を確定できます。ただし、為替予約取引は、取り決め通りに取引を行わなければならない点に注意が必要です。例えば、3か月先に10万ドルを売却して1ドル=140円で購入する取り決めを行っていたが、3か月後に、1ドル=160円になったので、取り決めをなかったことにすることはできません。

 為替予約を活用する企業から「思ったより円安にいったから、この為替予約はやらなければよかった…」と後悔したお話をよく聞きますが、為替予約取引は、あくまでも将来の損益を早期に確定することが目的で、投機目的(損得を判断するもの)ではないのです。この点を十分認識した上で活用しないと、為替相場予想に翻弄されている状態と何ら変わりはないことになってしまいます(図表3)。

 また、為替予約取引は金融機関の与信行為に該当するため、すべての企業で導入できるわけではない点にも注意が必要です。

図表3
1ドルあたりの円相場と損益関係のイメージ(輸出取引の場合)

筆者作成

何よりも「心もち」が大切
 国際化の波は日本企業にとって避けては通れない状況です。そして、昨今の為替相場動向の不透明感は、企業が国際化を進める上での1つの悩みの種であることも間違いないと思います。しかし、為替変動リスクヘッジの正しい知識を身につけ、為替相場動向に振り回されない「心もち」をもつことができれば、恐れることなく国際化の波に乗ることができるのではないでしょうか。

 今回のお話が、皆様の国際化に向けた前向きな取り組みへの一助となれば嬉しいです。

【筆者紹介】

関谷 由佳理(せきや ゆかり)
大学卒業後、金融機関に勤務し、主に法人営業に従事。中小企業から大企業まで幅広い顧客層を担当してきた。最近は、グローバル展開を行う日系のお客さまを担当している。2021年12月中小企業診断士登録。

24/02/20 10:32 | 投稿者:国際部

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