各種報告
診断士協会を大手コンサルファームにも勝るコンサル集団に ~宇野支部長が描く城南の未来

 城南支部の幹部の皆さんのインタビュー連載企画。最終回は本年度就任された宇野俊郎支部長(以下、支部長)に話を伺った。


■Jヴィレッジで学んだこと

 支部長は、クロスワンコンサルティング株式会社を経営し、主にホテルや旅館、飲食業などホスピタリティ企業の事業再生を専門としている。人形町にオフィスを構え、複数のコンサルタントを有し、順調にビジネスを展開されているように見えるが、ここに至るまでには大変な苦労をされてきた。その中でもキャリアのベースとなっているものが、診断士取得前のホテル総支配人の経験である。

 支部長は、筑波大学を卒業後、企業の食堂・宿泊施設運営を受託するエームサービス株式会社に入社する。その中で最も長く関わった事業が、サッカー日本代表のトレーニング施設としても有名なJヴィレッジのホテル部門の運営である。施設の立ち上げから8年間をJヴィレッジ過ごし最後は総支配人まで経験した。

 当時、まだエームサービスとしてはホテル運営のノウハウに乏しく、それこそゼロからの立ち上げに近い状態であった。また、Jヴィレッジ設立の背景も非常に複雑であった。
Jヴィレッジは、東京電力が福島県浜通り地方の地域振興策の一環として設立し、福島県に寄贈したもので、この2者と日本サッカー協会が共同出資した株式会社Jヴィレッジ(旧日本フットボールヴィレッジ)により経営されている。そのホテル部門運営を支部長が勤務するエームサービス社が受託していたのだ。“大人の事情”が複雑に絡み合う組織の中で、当時20代後半から30代前半の支部長が現場で運営を行うというのは、並大抵の苦労ではなかったようだ。

 「クライアントに毎日怒られながらでしたね。一方からは『サービス品質を上げろと』と言われ、もう一方からは『コストは下げろと…』と、ガンガン言われましてね。それでもなんとかなるものだなと今では思うんですけど、当時は辛かったですね。かなり打たれ強くなりましたよ…。」

 この経験を通して支部長は、立場が異なり利益相反するステークホルダーの間で、いかに交渉し折り合いをつけていくか、現場で実感として学ぶ。また経営を体系的に学ぶことの重要性も感じ、それが中小企業診断士の資格取得につながったのだ。

 「当時、総支配人として見ていたのはP/Lだけなんですよ。B/Sとかキャッシュフローまでは見てなくて。マネジメントの知識、理論も知らないし、いわば独学でやっているみたいなものなので、一皮むけるためにも診断士というのは必要だろうなとずっと思っていました。」


■ “下請け”から…事業再生のプロへ

 支部長は、総支配人から本社に戻ってきたところで、本格的に診断士の勉強を始める。そして36歳で資格取得。1年後に会社を退社し、独立する。

 「何となく40歳くらいまでに自分で会社を作ってみたいなという思いがあって…。ちょうどそのとき勤めていた会社で人事異動の話があり、それを受けると40歳を超えてしまう…、それでこのタイミングしかないかなと。後先考えずに会社を辞めたっていうのが正直なところですね。」

 2006年5月、新会社法が施行されたのと同じタイミングで、クロスワンコンサルティング株式会社を設立する。

 「もともと独立したときに、将来大きくしたいなというのはあったんですよ。一人仕事ではなくて、同じ方向を向いてがんばれるコンサルタントと一緒に大きくしたいなと。それで最初から株式会社にしたんですね。」

 ただ、最初から仕事があったわけではない。自宅で独り、他のコンサル会社の下請け仕事や、創業塾などのセミナー講師をしてすごす。転機が訪れたのは会社設立後3年目である。

 「中小企業再生支援協議会から声がかかり、そこで実績を作ることができた。そこから、ホテル旅館の再生だったらクロスワンにお願いすればいいという口コミが拡がったんですね。営業しなくても仕事が来るようになりました。」

 バブル期の過剰投資による多大な負債など経営に悩むホテル旅館業界のニーズと、支部長の前職での現場経験、そして診断士としての経営知識、コンサルテーション技術がマッチし、事業は軌道に乗った。現在は、正社員を含む常駐メンバー9名、アソシエイトコンサルタント約20名で会社を運営し、これまでの事業再生支援実績は250件に上る。



クロスワンコンサルティング株式会社:https://www.xone-consulting.co.jp/

■“恩送り”で過去から未来へ…価値が連鎖していくコンサル塾

 診断士資格取得、独立と合わせ、支部長の診断士協会及び城南支部での活動も始まる。支部長の支部活動を語るうえで欠かせないものが城南コンサル塾である。

 支部長は、2010年城南コンサル塾の再開に際し、副塾長として取り組んで以来、2016年から昨年まで塾長、今年もコンサル塾担当兼任副支部長として、10年にわたり関わり続けている。開塾以来の基本理念は踏襲しつつ、時代に合わせカリキュラムを洗練させている。

 「僕が塾長になったときに結構カリキュラムを変えたんですよ。もっと体系的に学べるように。まず前半に、創業から再生・承継までライフステージに合わせた基本的なコンサルテーション技術を学ぶ。後半は業種別、機能別などの応用的な内容にしています。」

 特にこだわりがあるのが、城南コンサル塾名物ともいえる模擬講演である。90分のセミナー内容を作り、その一部を切り出して毎回全員一人3~5分発表する。その前提として、企画書、レッスンプラン、レジュメを事前に提出しなければならない。

 「最近の診断士はしゃべりがうまいんですが、我々そこはあまり見てないんですよ。それよりもレッスンプラン、話の組み立てなんですね。どこでメリハリつけて、聴衆をひきつけるか。で、聴衆にこの先生すごいなと思わせる。それは独立してもすごい役に立つと大抵の卒塾性は言います。」

 塾生の負担も大きいが、20名分、各90分のセミナー内容すべてに目を通す講師の負担もかなりのものである。

 「我々は、“恩送り”と呼んでいるのですが、先輩が後輩を指導して、教えられた診断士がまた後輩を教える。そういう連鎖の中で、僕もそういう思いが強くなっているんだと思うのですが、自分の仕事がどんなに忙しくなっても、後進の育成、そして協会や診断士の地位向上に寄与していきたいですね。」


城南コンサル塾:http://johnan-consul.com/

■支部長が描く、診断士コンサル集団のビジョンとは

 最後に支部長に、支部の今後のあるべき姿、また支部会員の診断士に望む姿を伺った。

 「診断士って他の資格と違うところが、皆さんいろいろな仕事をしてらっしゃる、バックボーンも違う、これってすごいことだと僕は思っているんですよ。その力を合わせれば巷にあるコンサルファームとは全然違うコンサルティングができると僕は思っています。そういう集団にしたいんですよね。」

 支部長はそれを「緩やかだけども、強固なネットワーク」と表現する。

 「仕事をするときはぐっとプロジェクトチームを作って、質の高いコンサルティングができる。業界の知見がある人が集まってきて、最高の質のものを達成する。終わったら散って、また違うコンサルニーズに応える。そういうプラットフォームになると、もっと協会としての地位も上げられると思うんですよね。」

 2020年9月、菅政権が発足し、中小企業の生産性向上を唱えるデービッド・アトキンソン氏が成長戦略会議のメンバーに起用された。今後、中小企業政策の大きな転換が予想される。

 「今後、中小企業診断士も役割が変わってくると思うんですよ。コンサル塾でも話しているのですが、僕個人的には大企業のコンサルティングもできるくらいの能力はもってもらいたいと…。基本的な能力を持った人が集まって、それぞれ専門性がいっぱい尖ったものがあって、そうするといろいろなクライアントからいろいろなコンサルニーズがあっても、対応できると思うんですよね。外資系のコンサルファームと戦っても勝てるぐらいの集団にならないといけない。」

 「アトキンソンさんが言っているようなマクロ的な視点は絶対必要なんですよ。でも、我々は、そのマクロ的な視点を理解しつつ、ミクロでしっかり伴走型で支援してあげる、というのが中小企業診断士の役割だと。」

 今こそ中小企業診断士の資質が試されるとき。コンサルテーション能力に磨きをかけ、「実践の城南」チームとしてクライアント企業の価値向上に寄与していく。ひいては多様性ある中小企業の価値を底上げし、日本全体の活力向上につなげる。飄々と話す支部長の目の奥に壮大なビジョンを感じた。

【筆者紹介】

鈴木 照幸(すずき てるゆき)
商用車メーカー勤務。企業内診断士。
2020年中小企業診断士登録。

20/11/10 18:00 | 投稿者:羽田巧

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