経営お役立ちコラム
電子記録債権制度の創設

中小企業の資金調達環境に、新しい波が起き始めています。平成
19年6月に成立、平成20年12月に施行された電子記録債権法の
サービスが、平成21年7月に三菱東京UFJ銀行、続いて平成22
年7月に三井住友銀行により開始されました。また、各地でも定期
的に電子記録債権に関するセミナーが開催されており、中小企業経
営に携わる方々にとっても気になる話題となっていることと思いま
す。そこで、今回から計三回にわたって、電子記録債権制度の概要
と、実際の利用におけるポイントを解説したいと思います。

電子記録債権法の制定の大きな目的は「中小企業の資金調達の円
滑化」です。そこで、今回の第一回目の解説として、中小企業の資
金調達環境についておさらいしながら、電子記録債権制度の概要に
ついてご説明します。

【手形の普及】
企業間取引の決済には従来、手形が使われていました。手形は振
り出しから実際に現金が受け取れる支払期日まで期間がありますが、
裏書譲渡ができることや、銀行に持ち込んで割引ができるというメ
リットにより、企業間の支払手段として長い間、広く利用されてき
ました。

【売掛債権への移行】
手形を利用した決済にはメリットもありましたが、手形の振出側
が負担する印紙税、発行の事務コストや、受取側の管理負担などの
デメリットもありました。こうしたデメリットは企業間の取引量が
増大するにつれて大きくなり、主に手形を振り出す側である大企業
にとって、年間で百万円を超える印紙税は重い負担となっていきま
した。そこで大企業は手形の振り出しを減らし、いわゆる期日指定
振込による支払に移行していき、それに伴い中小企業の資金調達に
も変化が起きました。
銀行に持ち込めばすぐに割り引いて現金化できる手形と異なり、
期日指定振込の売掛債権は譲渡禁止特約の存在や二重譲渡リスクを
回避するための事務手続きの負担から、手形と違いすぐに現金化す
ることが難しく、資金繰り手段としては利用しづらいことで資金調
達が困難になっていきました。

【電子記録債権制度の創設と制度の概要】
こうした環境下、中小企業の資金調達を支援することを目的とし
て、手形とも売掛債権とも異なる、新たな金銭債権の類型として、
電子記録債権制度を創設することが経済産業省の中で検討されまし
た。その後、検討の場を金融庁に移し、電子記録債権法は平成19
年6月に成立、平成20年12月に施行されました。
電子記録債権は手形や売掛債権からは独立した債権として、「電子
債権記録機関」によって管理されます。利用者は電子債権記録機関
と利用契約を結んだ上で、「発生(手形で言う振出)」や「譲渡(裏
書譲渡)」などの「電子記録」を電子債権記録機関に「記録請求」し
て、電子記録債権を利用します。また、支払期日には金融機関によ
る自動引き落としが行われ、債権者の口座に振り込まれます。
手形と大きく異なる点としては、債権の分割が「分割記録請求」
により容易に行えるということが挙げられます。これにより、手形
ではいったん金融機関に持ち込んで、割り引いてから現金で支払う
必要のあった小口の支払いも、電子記録債権を分割してから譲渡す
ることで、割引の必要なく支払うことができるようになります。

ここでご説明した内容は、あくまで電子記録債権法で定められた
内容です。実際のサービスでは、提供する金融機関によってサービ
ス内容に少しずつ違いがあります。第2回、第3回のコラムでは、
すでにサービスを開始した日本電子債権機構株式会社とSMBC電
子債権記録株式会社、そして、これからサービスを開始しようとし
ているみずほ電子債権記録株式会社、そして、平成24年にサービ
スを開始する予定の株式会社全銀電子債権ネットワークによる「で
んさいネット」のサービスについて解説していきたいと思います。

神風充男

10/08/16 00:16 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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