経営お役立ちコラム
英文契約書を読むポイント

●英文契約が求められている背景
 昨今、国境を超えた取引が珍しくなくなりました。英語を母国語としない国々の間で取り交わす守秘義務契約、売買契約、エージェント契約、代理店契約などにおいて、英文契約書が使われるようになってきております。
 この英文契約書は、英語で書かれた契約書という側面もありながらも、契約書に書かれた文章や解釈が、英米法の影響を多分に受けている側面もありますので、今回、英米法を中心として、英文契約書を読むポイントをご説明いたします。

●英文契約の特長(1) 離婚時のための文書
 日本国内での取引契約文章には、双方協議の上別途定めるという文言を目にすることが多いと思います。契約時にカバーされていない事項を円満に誠実に解決するというもので、いわば、当事者間の信頼に基づく契約の考え方が表れています。
 一方、英米の契約書は、「Diviorce Document」という離婚の時ための文書といわれます。これから、ビジネス関係を構築しよう、取引を始めようとするタイミングで、契約解除や紛争時の条件を議論していくのはこうした背景もあります。契約当事者間で、順調な時には話し合いで解決することができても、不調な時には話し合いの解決は困難だからこそ、あらかじめ、最悪の事態を想定して条件を詰めていくという姿勢が根底にあります。

●英文契約の特長(2) 絶対的な契約内容とAct of God
 日本の契約では、契約が不履行の責任を負わせるためには、契約不履行の当事者に十分な責任を負わせる事由が必要です。それに対して、英米の契約は、台風や戦争などあったとしても、一度契約したものは絶対に履行しなければならない。もし履行できなかった場合には金銭賠償とするとする考え方があります。そのため、Force Majeure条項という見慣れない条項がありますが、これは、テロ、戦争、台風、津波など、Act of Godと呼ばれる契約当事者の範疇を超える事象を並べて、契約履行の義務や損害賠償の責任を免除を明記しているということになります。

●英文契約の特長(3) Consideration(約因)
 日本においては、契約の成立は「申込に対して承諾があったとき」で、書面であっても、口頭でも形式は問わないというのが常識的にとらえられております。これは、ドイツやフランスの法体系(=大陸法)に日本の法律は多分に影響を受けております。
 それに対して、イギリスやアメリカの法体系(=英米法)は、「申込に対する承諾」のほかに、Consideration(約因)」と呼ばれている重要な要素が求められます。“Consideration”を和訳すると、「熟慮、思いやり、対価」などの意味を持ちますが、契約の分野では「約因」と訳され、契約当事者がそれぞれ契約によりメリットや対価がある状態のことを指します。契約の成立には、当事者間の合意(申込に対する承諾)に加えて、この「約因」が必要で、この約因がない場合には、法的拘束力(法的強制力)を認めないとされています。 通常のビジネスでは、売買契約など「双務契約」が多いので、この「約因」は特段議論の対象になりませんが、契約による対価は何かを確認しておくとよいでしょう。

●英文契約の形式
 英文契約書には、秘密保持契約(Non Disclosure Agreement)、売買契約書(Sales Agreement)、販売店契約書(Distributor Agreement)など文書の形式がありますが、以下のような典型的な条項が並びます。詳しくは、専門書籍をご参考になさってください。

1. 定義 Definition
2. 瑕疵担保責任 Warranties
3. 秘密保持 Confidentiality
4. 契約期間と解除 Term & Termination
5. 救済 Remedies
6. 不可抗力 Force Majorce
7. 譲渡 Assignment
8. 権利の不放棄 No-Waiver
9. 紛争解決 Dispute Resolution
10.準拠法 Governing Law

●英文契約の交渉が開始したら・・・
 可能であれば、英文契約書を一度読み込んでいただき、ビジネスリスクを把握することが理想的ですが、専門家に支援依頼するときは、ビジネスの状況をお伝えいただくと、契約上のリスクを適切に判断できると思います。その際には、交渉に至った時の議事録や出張報告なども大いに参考になります。何かご不明な点がありましたら、東京都中小企業診断士協会 城南支部までお気軽にお声がけください。
 
小島洋介

20/03/30 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

このページの先頭へ戻る