経営お役立ちコラム
管理会計の重要性

今回は3回の連載の2回目です。「経営者の意思決定のポイント」
として私なりに重要と感じている3つのポイントのひとつである
「数値に基づく意思決定」について述べさせていただきます。

このテーマは、経営者が企業内部の意思決定・管理活動を行う
材料として、貨幣単位(数値)で表示した情報である管理会計の
重要性を過去の失敗例を交えて理解していただく内容となっています。
このコラムを読んで皆様のひとつの参考又は中小企業診断士として
活用できる一助となれば幸せです。

(1)管理会計の怖さ

今回のテーマを管理会計とさせていただいた理由についてご説明
させていただきます。私は、製造業会社(以下、B社といいます。)
の事業管理部門に所属していました。その時私が主に担当していた
仕事は、子会社の損益計画や予実管理などでした。当時のB社は
買収した会社の重複する事業などの再編を計画していました。

その再編計画を作成するに当たって、2社(以下、それぞれC社
とD社といいます。)で製造していた製品を1社製造に切り替える
ために管理会計上の各社の製品損益を各社から提出させて比較し、
製造移管を判断する準備を進めていました。今となってはいい加減
なことをやっていたなと思いますが、各社が作成した製品損益に
間違いがひとつもないことからこれを当然のように考えていました。

この段階では、C社に製造移管するのが良いという判断に基づき、
上司に報告することになりました。そこで上司から、それぞれの
会社に移管した場合の製品損益を出して欲しいとの要望がありました。
その時は、なぜそんなことをする必要があるのか、各社から出した
製品損益に間違いはないのにという考えでいたため、半ば半信半疑
で上司に言われるがまま資料を作成しました。

作成した資料を見たときに自分の目を疑ってしまいました。C社
に移管していれば赤字になり、D社に移管すれば今よりも大きな
収益があがる結果になったのです。そもそもD社の生産数量が多く、
固定費を生産数量に応じて按分しており、この按分した分だけD社
の利益が低く見えていたのです。上司はこの点について既に気付い
ていたので、私に出し直しを命じたのだということに気付きました。
もう少しで間違った判断をさせてしまう情報を出すところでした。
今でもこの上司とは私が会社を退職した後も引き続きお付き合いさ
せていただいています。

(2)管理会計の重要性

上記のように管理会計は、経営管理者の意思決定に役に立てる
ための重要な情報となります。また、法的な規制がなく、目的に
沿って自由に加工できることから、情報の取り方や加工の方法など
によって有意な情報を提供できる反面、ミスリードにつながる
可能性があることに留意が必要です。

では、ここからは実際に経営判断をする上での管理会計の
ポイントについて事例を挙げながら説明します。

ある製造メーカにおいて2つの製品Aと製品Bをそれぞれ毎月
1,000個ずつ製造・販売しています。各製品の1個当たりの販売
価格と材料費は、製品Aが700円/個(販売価格)と250円/個
(材料費)、製品Bが450円/個(販売価格)と100円/個(材料費)
です。労務費は従業員の給与15万円を直接作業時間に比例して、
間接経費60万円は直接費(材料費と労務費の合計)に比例して、
それぞれ各製品に配賦したとします。この場合の各製品の月次
損益は、製品Aが売上700千円、材料費250千円、労務費75千円、
間接経費390円、営業利益△15千円となり、製品Bが売上450千円、
材料費100千円、労務費75千円、間接経費210円、営業利益65千円
となります。

この損益計算書を見た社長は、赤字の製品Aの製造・販売を中止
して、製品Bを2倍の毎月2,000個に増やしたほうが良いと考え、
実行に移しました。その結果は、売上900千円、材料費200千円、
労務費150千円、間接経費600円、営業利益△50千円となり、赤字
になってしまいました。

このように黒字製品である製品Bを増やしたのに赤字になって
しまい、逆に赤字製品であった製品Aを増やすと売上1,400千円、
材料費500千円、労務費150千円、間接経費600円、営業利益150千円
となり、黒字になります。

この事例は、社長の意思決定をミスリードさせる典型的な例に
なります。この場合には、労務費と間接経費は、どちらの製品に生産
を集中させるかに関係なく発生するので、各製品の利益を比較する
際には除外すべき情報になります。どちらかの製品に生産を集中
させるかの比較基準としては営業利益ではなく、売上から材料費を
引いた貢献利益で行うべきということになります。

この事例は単純化しているため、一目見ればすぐ分かる内容に
なっていますが、現実の会社の情報はより複雑になっています。
よって、管理会計の重要性としては、正しい意思決定を行えるように
複雑な情報の取り方や加工の方法を整理することが必要になります。

今後、コンサルタントとしてクライアントに適切なアドバイスを
行う上で、数字的根拠に基づいて行うときは、このようなポイント
および留意点に注意していただければと思います。

原辺 正守

12/01/08 17:33 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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