経営お役立ちコラム
海外子会社へのガバナンスのポイント(第3回) 本社による内部監査の実施

◆はじめに

海外子会社へのガバナンスのポイントとして、第1回のコラムでは「本社と現地経営陣とのコミュニケーション」、第2回のコラムでは「現地スタッフの労務管理」について述べた。第3回の今回は「本社による内部監査の実施」について筆者の経験を中心に述べることとしたい。

◆内部監査の実施

海外子会社の実態を把握するためには、本社による定期的な内部監査が極めて有効である。それには、派遣する監査スタッフの養成や出張のための交通費、宿泊代など相応の費用負担が発生するが、これは本社による経営ガバナンスを効かせるための必要経費であり、これを出し惜しむと後々潜在的なリスクが顕在化することになり、却ってコストが嵩むことになりかねない。

中小企業の海外子会社の決算は現地会計事務所にて取りまとめられているが、会計監査までは行われているケースは殆どない。そのため、筆者が支援した会社の海外子会社監査では、本社スタッフに加えて顧問会計士にも同道してもらい、①現地会計事務所との決算内容についての意見交換、②総勘定元帳より一定金額以上の取引や定期的に反復する取引などを抜き出し、伝票、社内稟議書と突合する抜き取り監査(時間の制約から全量監査が出来なかったため)、③資金、経費、売掛金管理状況のチェック等をお願いした。 
会計監査以外では、①就業規則、給与規程、決裁規程、人事管理制度などの内部規則の整備状況、②現地スタッフとの雇用契約書の内容、③これらの規程/契約書の現地弁護士によるリーガルチェックの有無、④情報管理の実施状況、⑤製造子会社であれば、それに加え品質管理、工程管理についても監査項目となる。

英語圏以外にある海外子会社の場合、内部規程類や雇用契約書について現地語で記載することになるが、日本語又は英語を併記させることが必要である。その場合トラブルを避ける意味でも「現地語と併記した英語又は日本語と解釈が異なる場合には、英語又は日本語による解釈を優先する」との条項を規程/雇用契約書に必ず入れるようにしたい。
また、現地監査の際に、出来るだけ多くの現地スタッフと面談し、彼等の意見を聞いて、現地スタッフから見た会社の運営面での問題点を把握することが必要である。

◆内部監査で判明した事例

筆者が支援した会社のA国子会社において建物の大規模改修工事を実施するに当たり、工事業者を選定することになった。その際 現地コンサルタントの「財務内容良好で工事実績十分な会社」であるとの説明を信じて 同コンサルタントの推薦する業者に工事を発注するところであった。たまたまその時期に監査の一環として、本社からの監査スタッフが現地語で書かれた工事業者の会社案内を、現地語を英訳する辞書を使って読んでみたところ、同工事業者の財務内容は脆弱であり、現地コンサルタントと工事業者が結託していたことが判明し、発注を止めることができた。
ちなみに、日本では英語をはじめとする主要言語以外の辞書は簡単には手に入らないし、入ったとしても高価であるが、現地では現地語を英語に翻訳する辞書であれば比較的容易かつ安価に入手できる。

◆終わりに

海外子会社は、日本本社スタッフから見ても「別もの」と考えられがちである。そういった意識を払拭するために海外子会社情報を本社内で共有し、ブラックボックス化しないようにすることが肝要である。そのためには、上述の内部監査による実態把握を励行することに加え、第1回、第2回のコラムで述べた①海外子会社からの定期的な報告と本社との定例会議を実施すること、②現地からの報告を鵜呑みにしないで疑問点があれば独自に調べることを心掛けることなどにより、日本本社によるガバナンスを強めていくことが必要である。


第1回:海外子会社へのガバナンスのポイント(第1回) 本社と現地経営陣とのコミュニケーション

第2回:海外子会社へのガバナンスのポイント(第2回) 現地スタッフの労務管理


<<執筆者>>

 

 

 

 
岡田 光史

2005年中小企業診断士登録
大学卒業後に都市銀行(現在のメガバンク)に入行、銀行では融資、外国為替、コーポレートファイナンス、海外支店にて経営管理を経験。その後教育機関(大学)にて海外法人の運営管理、海外からの事業撤退、海外法人への業務監査を経験。

23/03/31 21:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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