経営お役立ちコラム
日本の医療の国際化

1.日本の医療の課題と国際化

日本の医療システムは、国民皆保険制度下、医療サービスへのフリーアクセスを維持しつつ、質の高いサービスを提供してきた。しかしながら、医療保険財政の悪化、高齢者の増加、医療サービスの高度化等のさまざまな課題に日本の医療システムは直面しており、今後も長期的に同水準のサービスを提供できるかが、不安視されている。

このような状況を打開して、医療システムの持続的成長を図る戦略として注目されているのが、成長産業としての医療システムの国際化である。日本の医療機関が、医療機器・製薬メーカー等と海外に進出し、現地の事情に即した医療サービスを開発することを通じて、現地医療の質の向上に貢献するとともに、その成果を国内医療にも還元することを期待されている。また、海外からの患者の受け入れを通じて、多くの症例の診察による医療技術の蓄積ができ、医療機関の資本蓄積がなされ、国内医療サービスの質の向上に寄与するものと考えられている。

2.日本の医療産業の国際競争力と今後の成長産業としての位置づけ

医療・介護・保育などの社会保障分野は、民間の創意工夫が活かされにくい分野と言われてきたが、やり方次第では成長産業への転換は可能である。官民の共同ワークを通じて、適切な制度設計、ならびに戦略実行を通じて、国内外における多岐にわたる事業展開が可能となる成長産業になる可能性を秘めている。

世界の医療市場は、2001年から2010年まで毎年平均8.7%で成長し、2010年の市場規模は約520兆円となっている。医療機器市場の地域別内訳では米国(約8兆円)、欧州(約6兆円)の市場規模は大きく、日本はこれに次ぐ3番目の市場(約2兆円)となっている。今後、平均寿命の延伸と出生率の低下により、世界の60歳以上の人口は、現在の8.9億人から2050年には24億人に増加し、医療ニーズが急激に拡大することが予想されている。

一方、国民皆保険制度に基づく均質で質の高いサービスへのアクセス、高度な母子保健の実施により、日本の乳幼児死亡率は世界で最低水準、平均寿命は世界で最高水準となっており、日本の医療サービスは高い評価を得ている。しかしながら、医療機器市場全体では欧米企業が圧倒的なシェアを占め、日本企業のシェアは低く、日本の医療機器は6,000億円の貿易赤字となっている。この日本の現状に対し、欧米諸国は、新興国に医療拠点を整備するなど、医療サービス輸出の動きを活発化している。

3.日本の成長戦略の中での医療産業の位置づけ

安倍政権下で政府は新たな成長戦略の重要項目として、医療分野では再生医療の推進とならび医療の国際展開を掲げている。医療の国際展開は、これまでも重要施策とされ、2010年6月に閣議決定された「新成長戦略~元気な日本 復活のシナリオ~」においても、医療の国際化については重要性が指摘されている。

同様に民主党政権下の2012年7月に策定された「日本再生戦略」では、「2020年の海外市場での医療機器・サービス等ヘルスケア関連産業の獲得市場規模」を約20兆円と設定された。そのハードルの高さから努力目標的な印象が強かったが、今回の成長戦略では、「日本の海外医療拠点を2020年までに10ヶ所程度創設し、日本の医療サービスが獲得する海外市場規模を2030年までに5兆円にする」とされ、現実的な数値目標になっている。

具体的な国際展開施策としては、一般社団法人メデイカル・エクセレンス・ジャパンを活用した国際展開、現地医療法人への出資、国際化に向けた規制・制度改革、途上国向け医薬品開発が提示されている。

味田村 正行

14/04/30 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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