経営お役立ちコラム
意思決定はこれでバッチリ! ~現場で使える管理会計の考え方(1)~

財務会計と比べて管理会計は何かつかみどころがない、どう使っていいかピンとこな
い、と感じる方が多いようです。しかし経営の現場では、会計的な数字をもとに複数の
選択肢を評価し、判断する場面が日々発生します。その際、正しい意思決定をするため
に管理会計が役に立つのです。今回から3回に分けて、現場ですぐ使える管理会計の基
本的な考え方をご紹介します。

今回は管理会計で特に重要な2つの費用の概念をとりあげます。一つは埋没費用。サ
ンクコストとも言い意思決定には影響しない費用です。そしてもう一つが機会費用。
他の選択肢から得られたはずの利益を意味し、こちらは意思決定に影響します。
具体例で考えてみましょう。

1個500円の弁当を1日平均1000個、製造販売している弁当屋があるとします。そこで
は弁当1個当たりの材料費は200円、人件費および諸経費は1日20万円かかります。単純
化のため、材料費は変動費、人件費および諸経費は固定費とします。つまり材料費は売
上に連動して増減しますが、人件費および諸経費は1日20万円で一定です。

さて、この弁当屋で2つの事態が発生しました。
1) 20個の注文を受けた顧客に弁当を届ける途中全部落としてしまい、20個作り直して届けた
2) 毎日20個注文してくれる別の顧客から今朝、「今日は要らないよ」と連絡があった。
それぞれの費用(損害)はいくらでしょうか?
第一感は、1)は大損、2)はそれほどでもない、となりそうです。確かに実際の出費と
いう感覚ではそうかもしれません。しかし、それが起きなかった時と比べるという意識
で費用をとらえると、別の姿が見えてきます。

実際に計算してみましょう。ポイントは比較すべき選択肢を正しく決めることです。
まず1)では、弁当を落とした場合(A)と落とさなかった場合(B)で比較します。
売上高:同じ
材料費(変動費):Aの方が200円×20個=4,000円多くかかる
人件費+諸経費(固定費):20万円で同じ。
⇒ AはBより利益が4,000円減るため、弁当を落としたことの費用は4,000円。

次に2)では、弁当の注文がない場合(A’)と注文がある場合(B’)で比較します。
売上高:A’の方が500円×20個=10,000円少ない
材料費:A’の方が200円×20個=4,000円少ない
人件費+諸経費:20万円で同じ。
⇒ A’はB’より利益が6,000円減るため、注文が来なかったことの費用は6000円。
意外と大きい金額ですね!

これらの結果から言えることをまとめます。

まず、人件費+諸経費は1)でも2)でも事態の発生にかかわらず同じであり、費用
(損害)そのものの大きさには影響しません。つまり埋没費用に相当します。

次に、事態1)と2)の費用(損害)である4,000円と6,000円は、それぞれの事態発
生がないときに得られたはずの利益との差なので、機会費用に相当します。特に2)
では、出費が発生しないので費用(損害)を意識しにくいですが、機会費用の考え
方を取入れるとその金額がはっきりします。このように管理会計の費用概念を使う
ことで、経営者としては配達時の不注意をなくして作り直しを起こさないだけでな
く、なぜ注文が来なかったかの原因を探り顧客のニーズをフォローすることも大事
であることが良くわかります。

実際には人件費や諸経費の中に変動費が含まれているかもしれません。その場合
は 1)や2)の埋没費用や機会費用の金額は違ってきます。しかし大切なのは正確な
金額を計算することではなく、ある事態が起こったときに、その事態が起きなかっ
た時と比較して費用の大きさを認識しようとする意識です。それが今後の経営活動
の方向性や内容に関する、正しい意思決定につながるのです。

城南支部 大橋 功

16/08/31 22:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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