経営お役立ちコラム
意思決定の進め方

1.はじめに
意思決定とは、複数の選択肢の中からひとつを選び取り物事を決める行為です。ビジネスと社会生活のステージは意思決定の連続です。意思決定の優劣を判断するには、①業績の予想・予測、②合理的な意思決定ステップを踏んでいるかのプロセス評価といった2つの物差しが必要です。

業績の予想・予測は、科学的な観点からよりも複数の企業または事業の成功、市場動向等の観察から導かれることが多い。予想・予測の成就が起こりやすい意思決定とは、管理者・従業員・協力者が共感し、高い取り組み意欲を発揮できるような意思決定です。プロセス評価とは、意思決定のステップが結果(ビジネスでは業績の推移、社会生活では個々の現況)にどう影響したかの検討をすることです。

意思決定は仕事の終わりではなく、むしろ始まりです。定めた方針の下にいかに人・財を投入するか、組織・個の心をまとめていけるか、ステージでの意思決定の積み重ねと意思決定に必要な2つの物差しの循環がマネージメントの総体です。

2.意思決定のステップ
意思決定は、「何が問題かを探り」→「情報の収集分析を行い」→「解決策の絞り込みを行い」→「実施結果の検証と反省を行う」といったステップを踏みます。

◎何が問題かを探る
問題とは、「目標(ありたい姿)」と「現実」とのギャップを指し次のように分類できます。
・狙った目標や成果が何故達成できていないのか
・狙った目標や成果を達成できる手段、方法は何か
・決めた手段、方法に内在するリスクは何か、です。
目標は、自らの強みをいかして努力をすれば達成可能な水準を言います。目標設定の際には、「強みを過信していないか」、「自らの弱みを補強することに資財を投入しすぎていないか」などに注意が必要です。目標と現実のギャップを埋める手立て、すなわち、問題点(課題)を見つけ出すことが意思決定の最初のステップです。

◎情報の収集分析
情報収集は、問題を発生させた「真の原因」は何か、先入観で原因を特定し、その対策が別のトラブルを発生させないようにするために行います。S社(小型スーパーをチェーン展開)、T社(機械部品製造販売)を例にして説明します。

(目的を明確化する)
問題点を認識して、いつまでに、何のために、何を得たいがために行うのかをはっきりさせることです。
S社:どのような立地に出店すれば最も効果的に集客できるかが知りたい。
T 社:納入部品に不具合が発生している。発生原因及び何から手を付けたら良いか知りたい。

(仮説の設定)
どんな課題があり、どれから、どのように取り組むかについて、問題であると感じられることをいくつか設定します。
S社:1)駅から店舗までの距離が集客力と相関性をもつのではないか、2)近在の大手スーパー、コンビニエンスストアの出店状況に影響を受けるのではないか、3)顧客は高齢者か共働きの家庭ではないか。
T社:1)不具合の要因は〇〇とXXが考えられる、2)得意先のラインをストップさせてしまい、損害XXの可能性がある、3)他社の部品に代替され、今後の売上が○○減少するのではないか。

(情報収集に際しての留意点)
仮説をたて、その妥当性を検証できるデータを収集します。
S社:1)類似立地に出店している同業他社のデータで検証してみる、2)3)出店候地世帯構成と類似立地にある既存と同業他社店舗の集客状況を調べてみる。
T社:1)不具合の発生事実(個所の特定と状態、発生の日時・場所及び発生件数)と非発生事実(個所が同じでも不具合が発生していない事実)についてのデータで発生事実原因の絞り込みをする、2)3)本件担当者(営業、技術)、顧客等のデータで仮説を検証する。

(情報の分類)
原因、解決策、実行に移した際のリスクに分類します。T社の場合次のとおりです。

◎解決策の検討
収集した情報をもとに、決定する目的を明確にして複数の選択肢の中から最善と思われる解決策を選択します。
・決定目的・決定事項の明確化
何のために、何を決めるかです。例えば、「△△製品の販売シェア-を拡大するための販促策の選定」といった内容です。
・目標・条件の列挙
「販売額をXX億円、販促費△△億円以内」、条件は「できれば何と何が欲しい」といった具体的な表現にします。

◎選択肢の検討
(結果と確率を主観で見積もる)
誰しも将来を確実に見通すことは不可能です。主観で投入できる経営資源、制約条件、期待する成果をいくつか挙げ、複数の組み合わせで評価基準をつくり優先順位をつける場合があります。

(経済性評価)
・考察範囲
T社の例をとってみると、不具合の再発防止のために行う対策で、作業員の人数がかわるのか、残業時間がかわるのか、不具合率改善のために設備投資をするのかなど考察範囲を明らかにしておく必要があります。
・問題整理の留意点
-選択案を評価する際、各選択肢の利益の増分(収益の増分<得る金額>-
費用の増分<出す金額>)を検討することで問題の本質が見えてくる場合があります。
-設備投資比較の場合、埋没費用(回収不能になった過去の支出額)を除いて行う方が簡単です。

-複数の製品の有利さの比較の場合は、売価から変動費だけを差し引いた粗利益(貢献利益)をみていきます。
(分析の留意点)
・基礎的な定量分析は、3つのパターンの組み合わせとなります。
1)分解して構成要素の大きさを見る

2)何かが変わったときの変化の度合いを見る

3)分布や分散の状態を見る

・比較対象は、次のように分類できます。どういった軸で分解するか、どういった組み合わせをすれば問題点が見出せるかが重要です。
1)同じ種類の比較
会社と会社、社内のA部門とB部門の比較です。「業界平均」「全社平均」等の平均値と比べることで何かが見えることがあります。
2)全体と部分の比較
例えばアルコール代/食費から、日本酒/アルコール全体と分析を進めていくと、前者が妥当な水準で、後者が低ければ日本酒嗜好を高める施策を講じる必要があると判断できます。
3)時系列比較
比較対象の定義が継続していることが大切です。例えば市場規模を見る場合には市場の定義が同じかどうかの確認です。
3.意思決定の要素
意思決定を良い結果に導くには、「念思力、意志力、説得力、責任力」を研鑽、実践していくことです。
◎念思力(直観力)
直面した問題を意思決定のステップに沿って言葉にしていきます。思いつめると、ふと、何かが思い浮かぶ、意識の中で明確化することがあります。「これで良いのか」自問自答しながら意思決定のステップを踏み、結果の反省、経験者の話、書籍を参考にして次なる状況に備えます。

◎意志力
責任者はメンバーと一緒になって、「いかなる努力をしても道を開くといった強い意志をもてる目標設定」、「努力を継続したいと思わせるような仕掛けづくり」を心掛けていくことで、全体の意志力を高めることにつなげます。

◎説得力
責任者は、メンバーが何を聞きたいか仮説をたて、回答を準備します。説得してやろうと考えるのではなく、納得してもらう語りかけ、メンバーに対する傾聴姿勢が大切です。

◎責任力
責任者は、意思決定を自分の責任だと言い切り、結果についてメンバーと徹底究明して、次なる意思決定につなげます。メンバーが現在の状況を察知して「段取りを組み」「自分の判断で動ける」「自分から仕事を見つけることができる」雰囲気づくりを心掛けると良いように思います。

<<執筆者>>

砂村 栄三郎

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。大手樹脂加工メーカーを経て、2008年中小企業診断士事務所を開業。「事業承継支援」「上場準備企業に対する内部統制構築支援」「高年齢者の戦力化支援」「経営計画策定支援」などのコンサルティング活動、マネージメント研修などに携わっている。

20/02/29 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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