経営お役立ちコラム
大手三行が提供する電子記録債権のビジネスモデル

前回は電子記録債権制度創設の経緯と、制度の概要についてご説
明しました。今回と次回(第三回)は、電子記録債権を利用した、
実際のサービスの内容について、ご説明したいと思います。

【二つのビジネスモデルの棲み分け】

電子記録債権法の成立後、全国銀行協会(以下、全銀協)は手形
に近いサービスを提供するための電子債権記録機関(以下、記録機
関)の設立を表明し、その後、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、
みずほ銀行が相次いで電子記録債権事業への参入を表明しました。
いずれも、各行が独自に電子債権記録機関を設立し、自行の取引先
に利用してもらうことを想定しており、これまでにもあった、「一括
支払」サービス(銀行によって呼び方は異なります)と類似したサ
ービスです。

大企業とその取引先は主にこの「一括支払型電子記録債権サービ
ス」を利用し、中小企業同士の取引では、全銀協が提供する、「手形
型電子記録債権サービス」を利用することになると思われます。

【一括支払型電子記録債権による囲い込みサービス】

上記三行による電子記録債権サービスは、自行の優良顧客とその
仕入先を対象としたビジネスモデルです。
自行の優良顧客である大企業を債務者として、債務者の仕入情報
を自行が設立する記録機関に一括送信してもらい、電子記録債権の
発生記録を行います。

債権者である仕入先は、支払期日まで電子記録債権を保有してい
れば、あらかじめ指定した口座に従来の期日指定振込と同様に代金
が振り込まれます。利用する口座には特に制限はないようです。
支払期日より前に現金が必要になった場合は、窓口になっている銀
行に割引を申し込めば、手形と同じように資金化をすることができ
ます。

【一括支払型電子記録債権サービスの特徴】

従来の手形割引金利は、割引を依頼する債権者の信用力によって
決められていましたが、一括支払型電子記録債権サービスでは、債
務者の信用力によって金利が決まります。一括支払型サービスの債
務者には、信用力の高い企業が選ばれるので、手形の割引に比べて
低金利での資金調達ができるようになります。また、手形とは異な
り、銀行からの買い戻し請求権がない形での割引が可能になる場合
もあります。

しかし一方で欠点もあります。優良債務者の信用力を前提とした
ビジネスモデルのため、債務者になれる企業は信用力の高い大企業
に限られます。そのため、一括支払型サービスは大企業とその納入
先の取引の間を中心に利用することになると思われます。中小企業
の経営者の方が、「取引銀行がサービスを開始した」という情報を聞
きつけて銀行に申込みに行っても、利用できるとは限りません。ま
た、債権者として利用する場合にも、自社の納入先企業が銀行から
提案を受けて、利用を決定する必要があります。その場合には、金
融機関から納入先企業を介して、利用の案内があります。

【金融機関からの案内のない企業が利用する場合】

それでは、金融機関や納入先からの案内がなければ電子記録債権
は利用できないのでしょうか。現時点で提供されているサービスは、
三菱東京UFJ銀行とその親密先の地方銀行、または、三井住友銀行
のサービスですが、これらはすべて一括支払型サービスです。基本
的には金融機関からの案内で利用を開始することになります。

金融機関や納入先から案内がない場合は、全銀協が設立する記録
機関が提供するサービス(「でんさいネット」)を利用することにな
ります。こちらのサービスは「手形的利用を前提としたサービス」
となっており、全金融機関が制度に参加する予定です。手形を利用
できる(当座預金口座開設済)の企業であれば、ほぼ、問題なく利
用できるでしょう。また、当座預金開設済でない企業でも、債権者
として、電子記録債権を受け取ることはできるようになる予定です。
ただし、サービスの提供開始が2012年以降となっており、利用で
きるようになるまでに、少し時間がかかります。

次回はこの、全銀協が提供する電子記録債権サービス、「でんさい
ネット」について、詳しく解説していきます。

神風充男

10/08/29 12:37 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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