経営お役立ちコラム
労働生産性の維持向上につなげる中高年労働者の雇用施策

労働力人口の高齢化にともない、労働生産性(付加価値額(※)÷労働者数)に大きく影響する45歳以上の中高年労働者の雇用施策が課題となっています。

1.中高年を取り巻く雇用環境の変化
(1)労働力人口の高齢化
総務省統計局公表数値(令和3年10月)によれば、2021年の総人口は12,550万人、労働力人口(15歳以上人口のうち就業者と失業者の合計)は6,860万人、労働力割合(総人口に占める労働力人口)は54.7%となっています。労働力人口のうち55歳以上は2,132万人と、全労働力人口の31%を占め高齢化が進んでいます。
(2)国が進める高年齢者就業確保措置
事業主は、高年齢者雇用安定法により、65歳まで労働者の雇用を確保する義務があります。さらに令和3(2021)年4月1日以降は、企業に対して労働者が70歳まで就業できる機会を確保するための努力義務が課せられています。65歳以上の男女の約2割が「働けるうちは、いつまでも」、また約4割が65歳を超えて就業することを希望しているとの統計があることから、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分発揮できるよう、その活躍の場を整備することが改正の主旨です。
(3)高齢期人事制度に対する中高年の意識
図表1は、中高年が望ましいと考えている高齢期の人事制度です。「これまでの仕事を継続できる」、「労働負荷軽減の働き方(転勤や異動がなく、労働時間を選べる)」、「働きぶり評価にもとづく賃金設定」等を望んでいます。

 

2.高齢者戦力化の検討手順
高齢社員(以下 高齢者)に雇用機会を提供する「義務的雇用」は、人件費の負担感ばかりが高まります。図表2に示すとおり、メリットを活かし、リスクを低減できる制度設計を検討する必要があります。

① 評価制度の検討
経営層の理解と関与を得た上で、「組織効率」、「社員の意欲高揚」、「安全衛生」といった3つの視点から、例えば図表3のように人事評価項目を決めていきます。自社の業績優秀者のコンピテンシー(行動の様式や特性)を人事評価にとりいれることも、モチベーション向上に役立ちます。

② 高齢者の賃金と職場配置
高齢者の賃金は、長期的雇用を前提としないため、「いま」の働きを反映させた仕事基準による基本給が望ましいのですが、過去基準(定年時の基本給をもとに新賃金を決める)を選択する企業が多いようです。60歳時の賃金を100とした場合、社員数が100人未満80.5%、300人未満78.2%、300~1,000人未満74.7%、1,000人以上70.9%と企業規模が大きくなるほど賃金の減少率は高くなっています。職場配置は、㋐本人の希望、㋑本人の知識経験の活用度合い、㋒肉体的な負荷、㋓後進の育成などについて考慮されています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する2019年実施調査」)

③ 高齢者の賃金設定
・定年前評価
基本給は定年前直近5年間の評価を加重平均した結果をベースにします。資格等級別基本給によって、その評価を±で行います。ライン部門とスタッフ部門には差はつけません。1年更新の契約の場合には、契約更新時に評価に応じた基本給の改定を行います。
・役割(職務)比較評価
図表4は、某職場の59歳社員の役割が継続雇用社員(60歳時)に移行すると、その役割がどのくらい減少するかを減少率でとらえ、賃金設定の参考にしたものです。役職の継続有無、職務責任の範囲、勤務体制なども評価にいれます。

④ 評価要素に必要な目標管理
テレワークのように必ずしも労働のプロセスを上司が可視化できない働き方や、過去の評価でなく現在の働き方を評価することによる賃金設定を求めることが多くなった労働者の意識変化などから、プロセスと成果を組み合わせた目標管理が評価要素を判断する上で重要になります。目標は、利益増・売上伸長・原価低減などの会社業績の向上に結びつくこと、社員の意欲と能力を高めるものであることが条件です。目標の数は5項目以内と極力少なくして、成果を定量化します。しかし、定量化よりも成果を達成する方策を実施する方が有効であれば、図表5のとおり、その方策を目標にし、その達成基準を人事考課、役割評価率(図表4)に反映させます。

⑤ 高齢者の戦力化
企業が高齢者の活用で直面する問題は、「高齢者の仕事を確保することが難しい「管理職であった者の扱いが難しい」「処遇決定が難しい」「加齢による仕事能力の低下が心配」などです。第1の課題は、図表6に示している高齢者の職域、職務の棚卸を行い、どういった職務であれば、高齢者の能力が活かせるかです。第2は、「今の仕事」を評価する賃金設定の検討です。定年時の賃金から一律ダウンといった設定では高齢者の意欲を低下させてしまいます。職責の範囲、職務内容、勤務制約条件などを考慮して賃金設定をする必要があります。

 

第3は、人材育成投資です。「会社が必要とする人材として活躍するために、何が必要かを学ぶ生涯現役研修」「高齢者が配置されている職場の管理監督者を対象にしたマネージメント研修」、「仕事スキル習得研修」等の研修では、国の助成策を活用することもできます。研修を通じ、高齢者自身の自己研鑽意欲の向上が期待できます。
第4は、デジタル技術の普及に伴う働き方の検討です。テレワーク、業務のDX化(デジタルトランスフォーメーション)に中高年労働者をどういった方法で適応させていくかです。現役社員は仕事と私生活の境界があいまいとなり、疲労や集中力が低下する傾向があると言われています。社員に無用な負荷をかけない、「DX業務推進ガイドライン」の策定が必要です。例えば、「就業時間外の連絡をどこまで許容するか」、「特定の日や時間帯を会議禁止とする」、「社員が働く場所を選択できる(フリーアドレス)の採用」など業種、業態を考慮した運用指針です。

 

3.最後に
生産性を上げるためには、「労働者に安心して働ける環境を提供する」、「仕事の実績を評価し、その評価を処遇に反映する」、「企業が労働者に必要としている能力要件を周知し、研鑽する意欲をもたせる」等が必要です。


※付加価値

付加価値とは企業が労働、設備、資本などの資源を活用して製品、サービスに加えた新たな価値。付加価値額は次の配分先別科目合計。
経常利益(配分先→株主)+人件費(→経営者、労働者)+支払利息、割引料(→金融資本家)+機械設備、土地建物賃借料(→賃貸業者)+租税公課(→社会)+減価償却費(配分先はないが、他社比較に活用)。


<<執筆者>>

砂村 栄三郎
慶應義塾大学法学部卒業。大手樹脂加工メーカーを経て、2008年中小企業診断士事務所開業、第一種衛生管理者、(一般社団)中小企業診断協会会員。

22/11/30 21:00 | カテゴリー:, ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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