経営お役立ちコラム
事業者が知っておきたい民事調停制度のお話

 事業を行う上では、「契約・取引に関するトラブル」、「債権回収・債権保全」、「倒産回避に向けた事業再建」、「損害賠償対応」、「雇用・労務」、「クレーム対策」等、様々な法律問題(以下 紛争)が事業者に起こり得ます。その場合、事業者は民事訴訟か民事調停を選択することになります。

 訴訟は、裁判所が紛争の原因となった当事者が主張する法律上の権利義務を基礎付ける具体的事実を証拠に基づいて認定し、法規を適用して、紛争の処理を行います。従って、訴訟手続きが複雑で、かつ、審理に慎重を期するため、相当の日時と費用とを必要とする傾向があります。民事調停制度は、訴訟の長所を活かし短所を補う目的で設けられた制度です。私は、民事調停委員を8年経験した感想から、事業者の皆様にこの制度の有用性を知っていただきたいと思っています。

1.紛争解決の助けになる民事調停(以下 調停)

1)調停の目的
 調停主任裁判官と民間の有識者である調停委員2人からなる調停委員会が、法律的な判断を基本に置きながら、紛争の実情をよく聞き取り、説得し、その主張を互いに歩み寄らせて合意を図ろうとするものです。法律の専門家でない当事者は、調停委員会の力を借りて、円満妥当な幅広い合意を得られ、こじれた人間関係の調整を図ることが可能となります。

2)紛争解決手段に調停が適する理由
 調停委員会は、当事者(申立人、相手方)が解決案を提示しやすいように、情報提供、問題点の整理といったサポートをすることになります。紛争の真因・問題点の整理、当事者双方の希望、その背景、根拠となる事実、そして、仮に訴訟で、判決をするとなれば、どういうところが問題となるのか、現在どのような証拠状況なのかの整理が行われます。紛争の渦中にいるとき、人はなかなか冷静に理性的に判断ができないものです。そのようなときに、そういった判断ができる人に、話をきいてもらい、問題点を整理してもらい、新しいものの見方、考え方を提案されると、自らも合理的理性的な判断がなされやすいのではないでしょうか。

 調停は、手続きが容易であり、紛争解決期間も短いことが多く、費用も低額です。非公開であるため、調停の記録を見ることができる人は、当事者と利害関係人に限られています。

 合意内容は当事者が自由に決められ、その内容を構成する調停条項は調停委員会が作成します。裁判上の和解(判決)と同一の効力が与えられ、合意内容によっては、これを守らない場合、相手方に対し強制執行をすることができることになります。

 一方、訴訟は、手続きに専門性が必要となりますので、弁護士に依頼する必要がでてきます。申立人(原告)が主張する権利義務は、公開の場で裁判所が証拠にもとづき判断を下し、強制的に紛争を解決します。調停に比べ費用と時間がかかります。弁護士・司法書士費用を支払う経済的余裕がない方は、民事法律扶助制度を活用して、弁護士・司法書士による無料相談やその立替えなどの援助を受けられます。(法テラス・サポートダイヤル 0570-078374)

2.調停手続きの流れ

法律知識のない方でも、調停の申立が容易にできます。申立は、原則として相手方住所地を管轄する簡易裁判所にすることになります。ただし例外もあり、例えば、宅地建物調停申立は、物件所在地を管轄する簡易裁判所になります。申立後は次のように進められます。

(1)裁判所は、その申立を担当する調停委員会(裁判官1人と調停委員2人)を設け、
   委員会が申立事実の事前調査を行います。
(2)裁判所は、調停期日を指定し、当事者(申立人、相手方)を招集し、
   出頭が確認されると調停が開始されます。
(3)委員会は、申立事実に関して当事者、事件の関係人から意見聴取、事実調査を行います。
(4)委員会は、当事者の意向を踏まえ、調停続行の可否について評議します。
(5)合意に至った場合は調停成立、合意に至らなかった場合は調停不成立です、
(6)合意に至らなかった場合、裁判所は職権で当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、
   事件の解決のために必要な決定をすることができます。
   但し、この決定は、通常の裁判と異なり、一定期間内に当事者の双方又は一方から
   異議の申立てがあれば、無条件に効力が失われます。

3.民事調停の種類

 紛争の種類によって申立の書式と記載内容が異なります。裁判所は、書式と書き方について相談を受け付けています。

(1)民事一般調停
   1)金銭紛争
     貸金、売買代金、請負代金等の回収、手附金の返還、損害賠償等の請求。
   2)不動産の売買手続紛争 
     所有権移転登記、抵当権設定登記、土地・建物所有権等。
(2)特定調停
   調停委員会が、支払不能に陥るおそれのある債務者が負っている金銭債務を、
   貸金業者と返済可能な方法に調整し、債務者の経済的な再生を図る。
(3)宅地建物調停
   賃借権確認、賃貸借、建物明渡、建物収去土地明渡、相隣関係等の紛争、
   地代借賃増減請求等の紛争。
(4)商事調停
   欠陥商品、製造物責任及び金融商品(有価証券、預金、保険等)をめぐる紛争、商標・商号・特許・
   実用新案等などによる差止請求や著作権などに関する紛争。
(5)交通調停
   自動車、自転車の運行により生じた損害賠償紛争。
(6)公害等調停
   公害又は日照、通風等の生活上の利益の侵害により生ずる損害賠償紛争。
(7)鉱害調停
   鉱害により生ずる賠償紛争。

4.事業者が心掛けたい紛争防止策

 事業者は、「自社がターゲットとする顧客に」、「顧客が求めている製品・サービスを」、「自社の独自の能力を活かして、どのように売っていくか」という課題に取り組んでいます。しかし、これらの課題を少人数で取り組んでいる事業者は、事務管理スタッフの不足から、紛争の未然防止に向けた取組みが不十分になっています。

 企業規模に見合った管理の仕組みは、業務の見直しから始まります。業務フロー(仕入、支払、製造、売上、売掛金回収等)を作成し、フローの各段階で行っている現状の事務手続、すなわち、「誰が」、「いつ」、「何のために」、「何を(証憑、契約書)」を作成しているか等の実情把握が大切です。「必要な手続き」は加え、自社の規模ではやりきれない「ムリな手続き」「ムダな手続き」は省き、自社が取組みやすい紛争防止策の検討を心掛けていただければと思います。

砂村 栄三郎

18/12/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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