経営お役立ちコラム
事業承継における知的資産経営の活用

1.はじめに
 下町に3代続く石材店「寺内石材店(石貫)」。頑固な親父である会社経営者は気に入らないことがあるとすぐにちゃぶ台をひっくり返すようなワンマンですが、気が優しくどこか憎めないところがあります。ピンときた方もいらっしゃると思いますが、昭和の有名なドラマ「寺内貫太郎一家」(初回放送1974年TBSテレビ)の設定です。都内の中小企業を描いたホームドラマであり、家族や老い、街のつながりなどが描かれています。
 これから、2回に渡り、「寺内石材店」を想定モデルケースとして、事業承継における知的資産経営の活用、遺言の活用について、令和の時代に置き換えて考察します。
 石材店の人物関係(かっこ内は出演者名)は、主人公兼会社経営者(小林亜星さん)、実母(樹木希林さん)、妻(加藤治子さん)、長女(梶芽衣子さん)、長男(西城秀樹さん)、石工(伴淳三郎さん、左とん平さん)、お手伝い(浅田美代子さん)といった方々です。

2.時代の変遷⇒20世紀:需要>供給から、21世紀:需要<供給
 昭和の高度成長期は、人口が増加し、日本の技術力、価格競争力が世界でも注目された時代でした。需要が供給を上回り、基本的に良い製品、商品を揃えておけば売れていくような状況でした。後継者は経営者の背中をみて学び、目に見える「人」「モノ」「カネ」をスムーズに引き継いでいくことで需要の恩恵を受けることが出来ました。実際、「寺内石材店」の代表貫太郎氏は、長男に対して、“あまり文句を言わずに従え”というスタイル(親子喧嘩が絶えない)を通していました。
 時代が、平成を挟んで令和となりましたが、冷戦崩壊の時代背景から、21世紀は、需要<供給となっています。つまり、新技術・新製品でも顧客に選ばれないと売れない環境です。石材店を取り巻く環境は、安い中国石材の輸入増、墓石のデザインに拘る個性の台頭といったことで変化してきています。

3.中小企業白書における事業承継と知的資産
 2019年版中小企業白書では、経営者の交代において、我が国経済が持続的に成長するためには、企業がこれまで培ってきた、未来に残すべき 価値を見極め、事業や経営資源を次世代に引き継ぐことが重要であるとしています。この経営資源は、「人」、「資産」、「知的資産」に大別できます。目に見える「人」(経営権や従業員等)・「資産」(株式、事業用資産、資金等)と、目に見えにくい「知的資産」(ノウハウ、取引先との人脈、顧客情報、知的財産権 等)です。つまり、供給が需要を上回る時代においては、企業の目に見えにくい強みを強化することで顧客に選ばれる存在価値が高まります。
 具体的に「寺内石材店」において、経営における知的資産3要素(人的資産、構造資産、関係資産)を考えてみましょう。(1)人的資産(従業員が退職する際に、持ち出される資産)としては、優秀な石工の存在、石材加工のノウハウ、石材注文への経験、家族経営を手助けするお手伝いさんの存在などです。(2)構造資産(従業員が退職しても、組織に残る資産)としては、3代続く老舗ブランド、石貫で知られる屋号としての信頼、石工を育て上げるシステムです。(3)関係資産(企業の対外関係に付随したすべての資産)としては、贔屓にしてくれる顧客、下町商店街のネットワーク、居酒屋の仲間たちなどです。このような、財務諸表には現れてこない目に見えにくい経営資源が、「寺内石材店」の特徴であり、競争力の源泉となっています。

4.経営をデザインする「経営デザインシート」
 さて、知的資産を分析することで、競争力の源泉は把握できました。石材店の経営環境は、前述の通り厳しくなってきています。4代目の長男が事業承継をするうえで、何が大事でしょうか。
 これまでの価値を生み出す仕組みを把握し、ニーズやウォンツに訴求できるこれからの 価値を生み出す仕組みを構想する、すなわち「経営をデザインする」ことが重要です。そのための具体的ツールとして「経営デザインシート」が内閣府知的財産戦略推進事務局より公開されています。これは、環境変化に耐え抜いていくために、自社や事業の存在意義を意識した上で、 「これまで」を把握し、 長期的な視点で「これから」の在りたい姿を構想し、それに向けて今から何をすべきか戦略を策定します。つまり、後継者は、現経営者とともに、企業の価値創造のメカニズムを把握し、さらに強化していくための長期的ビジョンを構想します。この経営デザイン力が企業の持続的成長につながります。
 例えば、ここで「寺内石材店」の経営をデザインしてみましょう。競争力の源泉である石工の加工ノウハウとコラボレーションする形で、デザイン専門学校などデザイナーと提携します。その上で、故人=個人の歴史や想いを丁寧に遺す「Onlyone墓石」を推進していくようなことが考えられます。

出所 参考文献:
・TBSチャンネル寺内貫太郎一家(https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0087/)
・2019年版「中小企業白書」中小企業庁
・「中小企業のための知的資産経営マニュアル」経済産業省
・「経営デザインシート」内閣府 知的財産戦略推進事務局

川居 宗則
 

19/08/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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