経営お役立ちコラム
中小企業経営者の悩みを解決する不動産活用術~安定収入、事業承継~

◆はじめに

新型コロナウイルス感染症の大流行や世界的な物価高によって、収入が不安定になっている企業が増えている。また、経営者の高年齢化に伴い、事業承継に課題を感じている企業も多い。今回は中小企業が「収入の安定化」および「事業承継の円滑化」を図るために不動産を活用する手法を紹介したい。

 

◆中小企業を取り巻く課題

最近では金融緩和の副作用として世界的な物価高が進行している。日本もその例外ではなく、2022年8月の企業物価指数は昨年比9.0%上昇し、2020年の平均を100とした水準で115.1と過去最高になった。仕入原価ばかりが上昇し、販売価格に上乗せできていない中小企業も多い。このように経済の先行きが不透明な中、安定した収益源を確保することは中小企業経営者にとって喫緊の課題といえる。また、経営者の高齢化も進行している。経営者の平均年齢は2021年において62.77歳と過去最高となった(東京商工リサーチ 2021年「全国社長の年齢」調査)。70歳以上の経営者の割合も増加しており、2021年において32.7%となった(2020年は31.8%)。そのため、中小企業において事業承継の重要性が増している。不動産はこの「収入の安定化」および「事業承継の円滑化」について有効な手法となりうる。

 

◆不動産賃貸業のビジネスモデル

不動産を活用して収入を得るビジネスといえば、不動産賃貸業が最もポピュラーである。不動産賃貸業のビジネスモデルは、収益不動産を保有し、それらを個人の入居者に賃貸し、対価として家賃収入を得るものである。新たに収益不動産を購入する場合は、金融機関から融資を受けることが多い。現金で一括購入するよりも融資を受けて購入した方がレバレッジを活用できて、資金効率が良くなるからである。不動産賃貸業にはインカムゲインとキャピタルゲインという2つの収益源がある。インカムゲインは毎月得られる家賃収入から借入金の返済や管理費を差し引いた残りの現金を獲得する手法である。一方でキャピタルゲインは不動産を売却し、そこから残債や売却手数料を差し引いた残りの現金を獲得する手法である。基本的に毎月のインカムゲインをコツコツと得ながら、売却時に大きなキャピタルゲインを獲得するのが不動産賃貸業の一般的なビジネスモデルである。

 

◆景気動向に影響を受けにくい家賃収入

家賃収入の最大の魅力はその安定性である。一般的にほとんどの事業が景気動向に左右される。もちろん家賃収入も景気の影響を受けるが、その影響は軽微である。基本的に景気が悪くなったからといって、人は簡単に住まいを変更しない。引っ越すためには移転費用(引越し代、敷金礼金、仲介手数料等)も必要だし、職場や学校が変わらない限り住むエリアも簡単に変えることができないからである。そのため、景気が悪くなっても賃料はほとんど減少しない特性がある。この「収入が変わらない」という特性を活かして経営の安定化に役立てている企業は多数存在する。大手不動産ディベロッパーは自社が開発した不動産を分譲するだけでなく、一部を自社保有し賃貸収入を得ている。また、大手新聞社やテレビ局の経営を支えているのが自社の保有する不動産から生み出される賃料収入であることも有名である。

 

◆事業承継に役立つ不動産

事業承継における最大の課題は後継者への株式譲渡である。業歴が長い中小企業の中には自社株式の価値が数億円を超える企業も少なくない。実際に、後継者への株式の譲渡を行う際の課題として、「後継者に株式買取資金がない」と回答した経営者の割合が63.7%と1位となっている(東京商工会議所 事業承継の取り組みと課題に関する実態アンケート報告書)。自社株の評価額を左右する2大要素は「利益」と「純資産」である(自社株評価の方法として類似業種比準価額方式と純資産価額方式を併用する場合)。収益不動産を保有することによって、利益と純資産の両方を下げることができる。不動産の建物部分は減価償却が可能であるため、建物比率が高いRCマンション等を購入することによって減価償却費を多く計上し、利益を圧縮することができる。また、不動産を賃貸することによって、土地と建物の両方の相続税評価を大幅に下げ、純資産を圧縮することができる。

 

◆終わりに

このように中小企業が不動産を保有することによって、賃料という安定収入を確保し、自己株式評価額を引き下げることで事業承継をスムーズに行うことが可能である。今のように先が見通しにくい世の中では、本業に加えて新規事業として不動産賃貸業を営むメリットも大きいといえる。ただし、不動産賃貸業特有のリスクがあることも忘れてはいけない。不動産を購入する際には借入を伴うことが一般的だが、過度な借入は自社の安全性を損なうリスクがある。また、入居者は定期的に入れ替わるため、その度ごとに仲介手数料や原状回復費用といったコストが発生する。建物が古くなれば屋根・外壁塗装といった大規模修繕工事も必要になる。このような様々なリスクに留意しながら不動産賃貸業に取り組んでいただきたいと願う。


<<執筆者>>

木下 壮平(きのした そうへい)

2008年中小企業診断士登録 宅地建物取引士

家族の不動産賃貸業の経験を元に中小企業における不動産活用コンサルティングを得意としている。また大手IT企業にて、新規事業開発、法人営業、Webマーケティングを経験。現在は不動産業や製造業の販路開拓、Webマーケティング支援に取り組んでいる。

22/10/31 21:00 | カテゴリー:,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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