経営お役立ちコラム
中小企業の究極の目標の上場に向けて・・・人材育成と業容の拡大

最終回の今回は、中小企業におけるIT導入の留意点、対応策を
筆者の失敗を含む経験からまとめてみます。

留意点の第一は、中小企業は全社プロジェクトが初めてか、
取組み経験が浅く、方法論に疎いことです。その典型が、第一回目
に申し上げた、基本設計書の内容確認・合意・承認の未実施です。
確かに、小規模開発や部分的開発であれば、テスト確認用のものを
まずは作成した上で、それを叩き台に議論しながら作り上げていく
方法もあります。しかしながら、会社全体もしくは複数部署に
またがるシステムについては、作るべきシステムの概要を文書に
落とし込み、それを関係者で確認し合うことで、漏れや不整合を
防ぐべきです。こうしたことは、中小企業診断士により、方法論や
適用手順についての的確なアドバイスがなされる必要があります。

第二の留意点は、会社全体としての全体最適より自己の属する
組織の部分最適を優先させたり、担当者同士の独断で口頭により
イージーに決めたりしがちなことです。そのため、それが原因で
システム全体としての整合性を欠いたり、齟齬が生じることになります。
そこで、筆者は専用の用紙を定め、関係部署責任者の承認印押印、
責任者間での文書のやり取り等をルール化、マニュアル化しました。
それによる効果は、いま申し上げた問題の解消のほか、組織間の
意思疎通の円滑化、改善提案増加等の効果をもたらしました。

第三の留意点は、大企業でも見られることではありますが、組織
防衛に傾きがちなことです。傷つくことを恐れ、「人の懐に手を
突っ込まない」風潮が強いことです。そのため、第2回で申し上げた
“インターネット受注機能強化による売上増大”提案時の各部署の
反応は、自社の売上が低迷する一方でライバル会社がインターネットで
売上を伸ばしているにもかかわらず、“反対もしなければ協力
もしない”ものでした。そうした営業部門が協力の姿勢を見せたのは、
毎月「システム白書」なるものを作成し、インターネット受注の
重要性とシステム強化の必要性を訴え続け、売上の伸びが注目される
ようになった3年目頃でした。トップのお声がかりもあって、本社
営業部門に専任担当者が置かれたことにより、システム部門と利用
部門の歯車がかみ合い、売上の伸びに弾みがつきました。インター
ネット受注は当初の年間2億円から30億円に15倍の大幅な
売り上げ増となりました。

販売面では、インターネット受注システムの強化等により、売上
の増加だけではなく、省力化、効率化の多くの点で大きな成果を
あげました。しかしながら、生産面については、システム部門の提案
について、“反対もしなければ協力もしない”状況が続き、筆者の
定年で時間切れとなりました。

生産面の課題は、年間1億円に及ぶ仕掛損失、4分の1が納期遅延
する個別受注品納期順守率、高止まりの内製品製造原価率と在庫コスト等、
明らかでした。そこで、受注別工程別着手・完了時間等のデータを元に、
担当者別工程別原因別仕掛損失件数金額一覧表や機械別時間別稼働率
一覧表等、手を打つべき箇所が一目瞭然の帳票を毎朝メール送信し、
さらには活用マニュアルまで作成したのですが、目立った成果を
あげることができませんでした。
システム対応のみでは成果に結びつかない失敗例でありました。

現在、中小企業にとって、IT導入のハードルは、過去に比べ格段に
低くなっています。それは、パソコン、インターネット、パッケージソフト、
大容量ネットワーク等が出現し、その利用が低価格で可能と
なったからです。一方で、長期化する国内景気の低迷は、コスト低減、
売上増大等の必要性を高めています。その点、ITの導入は、
コスト低減や売上増大に大きな効果をもたらします。
また、システム開発は、必然的に社内人材の育成を促します。
究極の目標たる上場に向けての人材育成と業容拡大のため、
ITを通じての中小企業診断士の果たすべき役割は
誠に大きいと言えます。

倉持俊雄

12/10/28 10:17 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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