経営お役立ちコラム
中小企業の事業承継の方法

事業を承継するには、経営ノウハウや経営理念などのソフトな資
産と、自社株式や事業用資産などのハードな資産の両方を引き継が
なければならない。

事業を引き継ぐ後継者は、引き継いだ事業を継続し発展させるこ
とが求められるので、株主、従業員、取引先、顧客など会社関係者
の期待にそって事業を経営する能力を備えていなければならない。
現在の経営者がもっている経営ノウハウを承継し、テクニカルス
キル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルなどの経営能力
を習得しておく必要がある。
さらに、根本的なことではあるが、企業の存在理由である事業に
対する創業者の想い、信条といった経営理念や創業精神をしっかり
と承継しておくことが大切である。

自社株式や事業用資産の承継について述べる前に、前提として中
小企業の資産の実態を把握しておく。
国税庁の調査によると、資本金1億円未満の中小企業の95%は同
族会社である。また、80%の中小企業で金融機関からの借入れに社
長が個人保証をしている。つまり、中小企業の所有と経営は一致し
ており、社長はオーナー経営者であり、会社の借入れにおいても個
人の借入れと同様とみなされているのである。

このオーナー経営者が死去した場合、次のような問題が顕在化する。
●相続時における自社株式や事業用資産の分散
●相続発生時の相続税の負担
●個人保証の引受け
●オーナー経営者の交代に起因する信用不安

発行済株式総数の過半数を保有すると取締役の選任など株主総会
での議決権を制することになるので、会社の経営権を握ることにな
る。そのため、自社株式や事業用資産の法定相続人である子息・子
女が事業を承継するのが一般的である。
また、経営者が後継者として自分の子供を望むことは情にかなっ
ており自然である。子息・子女に事業承継の意思はあるが能力が不
足している場合は、後継者教育を施し、補佐役で補えばよい。

しかし、子息・子女が事業を承継しない場合がある。経営者の子
供が、大企業の幹部や医者、弁護士になり、本人にいまさら家業を
引き継ぐ意思がない場合などである。また、親である経営者からみ
て子供に経営者としての適性が欠けている場合や、わざわざ子供に
事業を引継がせて責任を負わせたくないという場合も相当する。

このような場合、経営者の兄弟が会社で仕事を手伝っているとき
には、弟など子息・子女以外の親族が事業を承継することがある。
経営者の弟は法定相続人にならないので、経営者が遺言で兄弟に自
社株式や事業用資産を遺贈することもある。

経営者の兄弟が事業を引き継がない場合は、経営者の目にかなっ
た社内の人材や、取引先や金融機関など社外の人材に事業を引き継
ぐことがある。
ただしこの場合、事業の後継者に自社株式や事業用資産が遺贈さ
れることはないので、後継者が株式を購入するか、会社の他の経営
者とともにMBO(マネジメント・バイアウト)でオーナー経営者から
株式を取得することが必要になる。

さらに、発展した形態としてM&Aがある。事業の継続を条件に、
オーナー経営者が事業全体を第三者に売却するのである。

いずれの方法を選択する場合にも、事業承継には周到な準備と相
当の時間が必要である。

鉄尾佳司

10/03/23 10:28 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

このページの先頭へ戻る