経営お役立ちコラム
ブランディング手法を活用して、組織活性化を図る【第2回】

(前号より続く)

3.ワークショップの提案

もう1つの提案はワークショップの実施です。前にもお話ししたように、社長一人が空回りして、社員の方たちのモチベーションが上がらないケースです。社長と社員との間にズレが生じ始めています。また本社の他に営業所が地方にあったりすると、社員の間にもズレが生じ、ベクトルを合わせる必要が出てきます。
そのために私はワークショップを提案する事があります。50人規模の会社であれば、6〜9名程度が適切でしょう。3名で2〜3チームができます。
ここで大切なのはファシリテーターの選定と、ゴールの設定です。ファシリテーターは社外の人間が適切です。大企業であれば、社長などの経営陣が参加することは避けますが、中小企業の場合、私はあえてオブザーバーとして出席いただき、話を聞く機会を設けます。社長との擦り合わせもファシリテーターの大切な役目になります。
もう1つ大切なことはゴールを決めることです。どう一体感を作り、組織を活性化させていくことがテーマですから、ゴールは「10年後の在りたい我が社の姿」の共有が適切だと思います。

【事例2】

社歴50年の運送業と不動産賃貸業の会社の事例をお話しします。本社は都内にありますが、営業所は埼玉県と茨城県にある総勢50人ほどの会社です。運送業はリーマンショック以後低迷が続き、賃貸業の利益で赤字は補填されてきました。組織の活性化を通して、いかに運送業の生産性を上げていくかが課題となりました。
本社と営業所が2箇所とバラバラにあること、また社長は家業意識が強く、社員の方たちとコミュニケーションを取っていると仰っていますが、社長の考え方が理解できていない状態です。
不動産の賃貸収入があるというのは「強み」のひとつですが、私が注目したのは、社員の方たちが比較的若いということでした。一般に運送会社の運転手は高齢化が進んでいます。しかし当社は30代前半から後半にかけて十数名いました。若手・中堅を主体に、本社と営業所から管理職と配車係、ドライブリーダーの中から9名を選抜し、ワークショップの実施と、そこで“何をするのか”を提案しました。
提案テーマは以下の6テーマですが、基本はまず自分の会社を知ることから始めます。そのスケジュールと内容を下記に掲載しましたが、これは多少アレンジすれば、どのような会社にも応用できると思います。

以上のように月一回、3チームに分けて6ヶ月をかけてワークショップを続けています。
一番重要なのは表の6の「荷主に提供できる価値」の共有ができるかどうかです。当社の主なクライアントは北関東の自動車関連会社です。そのクライアントに対して提供できる価値とは?とディスカッションを繰り返しましたが、「最適なモノを、最適な時間に、最適な価格で運ぶ会社」というキーワードが抽出されました。顧客にとっての最適とは?を突き詰め、「ジャストを運ぶ」と再定義しました。このジャストを実現するために、現在、配車係とドライブリーダーとの間で具体化に取り組んでいます。
効果は全て検証できているわけではありませんが、社長と社員の方たちとのズレが少し埋まったことが実感できました。また具体的な成果としては、社内のモチベーションを上げるために、トラックを計画的に新車へ買い替えるルーティンの設定をワークショップから社長へお願いし、了承していただきました。

4.“事業承継”のその後に効く?

本当に偶然でしたが、事例でお話しした前回と今回の2社は親族による事業承継後の会社でした。事業承継はしたけれど‥‥、という感じで、会社の方向性に迷いがあり、社内コミュニケーションに難があったのが共通点です。この課題にメスを入れる手法としてブランディング手法である「経営ビジョンの再定義」と「ワークショップの実施」をセットで行うことが、かなり有効であるとの実感を得ました。他にもいろいろ手法はあるかと思いますが、事業承継で伸び悩んでいる会社の経営者に活用していただければと思います。


<<執筆者>>


石井 秀明(いしい ひであき)

クリエイティブ・ディレクター、マーケティング・ディレクターとして広告会社に勤務し、2010年中小企業診断士に登録し独立。
新規事業、新商品開発、マーケティング、ブランディング、販売促進、プロモーション等を中心に支援する。他に創業支援、経営改善や経営革新計画も手掛ける。

21/01/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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