経営お役立ちコラム
でんさいネット利用に関する注意点

平成20年に施行された電子記録債権制度について、これまで制
度の概要と、大手銀行三行が展開するサービスについて解説してき
ました。今回は、中小企業同士の取引で主に利用することになると
思われる、「でんさいネット」について解説します。

「でんさいネット」は全銀協が設立する電子債権記録機関(以下、
記録機関)で、全ての金融機関(大手行のほか、地銀、第二地銀、
信用金庫、各種組合系金融機関など)が参加を表明しています。金
融機関と取引している企業であれば、誰でも使え、平成24年度に
サービスを開始する予定です。

【利用開始時の注意点】

前回のコラムで解説した大手行が提供する一括支払型のサービス
では、記録機関を設立した金融機関がサービスの取りまとめを行い
ます。しかし、でんさいネットが提供するサービスは、利用者が口
座を保有している金融機関が発生記録や譲渡記録を受け付ける、サ
ービス提供の窓口となります。そのため、複数の金融機関に保有す
る口座でそれぞれ電子記録債権を利用する場合は、窓口となる金融
機関と一つ一つ利用契約を結んでいく必要があります。一つの金融
機関で、複数の口座を使うこともできます。

利用契約時には、「債権者としてのみの利用」、または「債務者・
債権者として利用」のどちらかを選択することになります。債権者
として利用する場合には電子記録債権の受け取り・譲渡はできます
が、振出(発生記録)はできません。債務者としての審査が必要な
いため、既に口座を持っている金融機関に申し込めばほぼ問題なく
利用できると思われます。一方、電子記録債権の振り出しを行いた
い場合は、「債務者・債権者として利用」するための契約が必要にな
ります。その場合は当座預金口座開設と同じような審査があると考
えられます。既に手形取引をしている企業であればほぼ問題なく利
用可能になるでしょう。

【電子記録債権利用時の注意点】

電子記録債権の利用は、利用者からの記録請求をコンピュータで処
理しているため、記載事項を手形のように細かく確認する必要はあ
りません。しかし、額面、支払期日が契約のとおりであることは、
当然、確認が必要です。

紙の手形と異なる点として、でんさいネットで振り出す電子記録
債権は譲渡禁止を設定することが可能です。ただし、この場合の譲
渡禁止の範囲は「裏書譲渡禁止」のみで、割引のために金融機関に
譲渡することまでは禁止できない決まりになっているようです。
もしも、受け取った電子記録債権を自社の仕入先に裏書譲渡して
支払を行いたいと考えている場合は、この点に注意する必要があり
ます。電子記録債権による支払を受ける場合には、譲渡禁止を設定
しないよう、支払側と交渉しておく必要があります。

また、電子記録債権の譲渡の際には「保証記録」の設定が可能で
す。「保証記録」とは、紙の手形の裏書譲渡と同様に、振出人が支払
期日に支払を行えない場合に、譲渡人が代わりに支払うことを保証
するものです。電子記録債権の譲渡により支払を受ける場合には、
譲渡人による保証記録が付けられているか、確認が必要になります。

支払期日の受け取りは、発生記録時に受取口座として選択した口
座に振り込まれることになります。発生記録を受けてから支払期日
の受け取り口座を変更したい場合には、自社の保有する、別の口座
への譲渡記録を行う必要があります。譲渡記録には手数料がかかる
ことになりますので、発生記録時の受け取り口座の選択も、あらか
じめ検討が必要です。

【割引時の注意点】

電子記録債権の割引は、従来どおり金融機関に依頼して行うこと
になると思われます。金融機関のシステム整備状況によりますが、
インターネットからの割引申し込みができるようになることも期待
されます。

注意が必要なのは、発生記録時に指定した受取口座以外の金融機
関での割引です。金融機関がどこまで監視するか(できるか)はわ
かりませんが、発生記録時に受取口座として指定した金融機関は、
利用者の電子記録債権の保有状況を知ることができます。他の金融
機関に割引を依頼することは金融機関との関係上、好ましくない場
合もあるでしょう。割引を行うことを考えている場合には、どこの
金融機関で割引を行うかを踏まえて、どの口座を受取口座とするべ
きかを考える必要があるでしょう。

これまで三回に渡って、制度の概要と実際に提供される(予定の)
サービスについて概観してきました。電子記録債権のサービスは法
律に基づいて行われるものですが、法律の検討段階から記録機関ご
とのサービスの違いを想定しており、それぞれのサービスにはこれ
まで説明してきた内容以外の違いもあると考えられます。電子記録
債権サービスが普及してくれば、一社だけのサービスを利用するの
ではなく、複数のサービスを使い分ける機会もあると考えられます。
利用者となる企業は、それぞれのサービスの共通点と、違いを把握
した上で使い分けることが必要になるでしょう。

神風充男

10/09/13 06:23 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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