経営お役立ちコラム
ちいさな企業(小規模企業)の企業再生

銀行及びサービサーにて企業再生業務に携わってきた経験より、
小規模企業の企業再生についてまとめました。

さて、一般的に言われる企業再生手法としては私的整理、法的
整理含め、会社分割やM&A、DES/DDS等の金融・法的手法による
BS面のアプローチが主流となっております。しかし、小規模企業
の再生実務を考えた場合、これらの手法を適用するには少々無理が
あるでしょう。そもそもこれらの外科的手法は、中堅中小企業、
金融機関でも大口の融資先を対象としており小規模企業向けの手法
ではないのです。

それでは、小規模企業の再生はどう行うべきか。基本的には
今ある限られた経営資源の中でPLを改善していくことになりますが、
単なる売上改善策では再生は実現しないと考えます。再生企業の
抱える問題は多様であり実務的には一律ではありませんが、概念的
なプロセスと、心理的に留意するべきポイントは次のようにある
べきだと考えています。

1.現状分析

再生企業の多くは、置かれている環境・状態が過酷なあまり、
現状から目を背ける傾向にあります。そのため、財務状況、内部
環境・外部環境を分析し窮地要因を認識する必要があります。
また業績低迷の中で自信を喪失していることが多いため、窮地
要因だけではなく人材やソフト面の「強み」を認識し自信を回復
することが重要です。
再生企業の場合、問題点が見えやすいため現状分析自体を行わない
場合がありますがこれらの理由から必ず行う必要があります。

2.事業(再建)計画策定

再生企業の場合、資金繰りや、薄利多忙な業務に追われ、企業
本来の目標を見失っている傾向にあります。目標や希望の見えない
中での努力、不安や恐怖の中での頑張りには限界があります。
ここでは希望となる本来のあるべき姿、存在理由、経営者の根源的
な思いを経営理念・ビジョンとして定義し、現状とのギャップを
経営課題として抽出することが必要です。そして事業計画として
言語化、数値化し再生への道のりを具体化することが求められます。
数値的な妥当性だけでなく、こうした過程で策定した事業計画こそ
再生への原動力、利害関係人や従業員へ説得力のあるものとなり、
結果として「実現可能性の高い、抜本的な、経営再建計画」となり
うるのです。

3.金融機関(資金繰り)対応

再生企業の場合、資金繰り対応が喫緊の課題であるため、金融支援
(リスケ)を得るための計画作成が最優先される傾向にあります。
しかし要件を揃えただけの形式的な計画は見ればわかりますし、
そうした計画では業績は改善せず、不良債権予備群から卒業すること
は出来ません。それよりも2.を踏まえた計画を誠実に説明すれば
金融機関も応えてくれます。金融機関の方も実態的に再生すること
を望んでいるのです。

また、金融機関交渉は債権者、債務者という対立軸を中心に考えられ
現状を覆い隠すケースもあります。しかしその場合、総じて結果として
良くない方向に進みます。中小企業の側も正確な情報開示を行い信頼
関係、協調関係を築いていくことが重要です。

そして、金融支援を受けた後は、一時的な安定に留まることなく、
再び新規融資が受けられる状態を目指す必要があります。企業が
継続的に事業を行うためには正常な銀行取引は不可欠なのです。

4.組織(集団)の活性化

再生企業では、先の見えない不安さや労働条件等から従業員の
モチベーションは低下し、十分なコミュニケーション機会がないため、
経営者と従業員に相互不信が生じている傾向があります。こうした
状況ではいくら立派な計画を作っても遂行することは出来ません。
どんな小さな会社でも事業計画説明会を開催し、目標と事業計画を
説明することが必要です。また可能な限り現状を開示し危機感を共有
するとともに、業務改善会議等を通じて従業員ともに一丸となる体制
を作らなければなりません。理論的に言い換えれば組織の三要素
(共通目的、コミュニケーション、協働意欲)を補完させ、死に体で
あった組織を活性化することが必要となるのです。

以上、要約すると、(1)現状分析の中で強みを認識し自信を回復させ、
(2)希望となる目標とあるべき姿を設定し、経営課題を事業計画に
落とし込み、(3)信頼関係を構築し金融機関の支援を受け、
(4)計画を遂行する生きた組織を構築する、というものです。
後は各種経営課題を達成する施策のモニタリング(PDCAサイクル)
を実践するだけです。そしてこれらのプロセスは小規模企業であれば
あるほど一貫性のあるものとして実践することが可能なのです。
事例を紹介出来ないのは残念ですが、上記を踏えた企業は経営者、
従業員の目の色が変わり爆発的な力を発揮します。危機感、目標、
自信を共有した企業は本当に強いのです。

最後に、上記は心理的に留意するべき点はあるものの、3.を除けば
殆ど診断士の診断プロセスと同じと考えられます。金融円滑化法終了
に伴い事業再生が必要な企業は5~6万社といわれますがその大半は
小規模企業です。こうしたことから小規模企業の再生における診断士の
役割はますます大きくなるものと考えています。

有馬 慎一郎

14/02/28 05:59 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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