経営お役立ちコラム
あわや倒産の危機・・・・・失敗プロジェクトからの教訓

本稿の目的は、中小企業におけるIT化の効果が極めて大きいこと、
しかしながら、そうした大きな効果を享受するためには、いくつかの
セオリーがあり、セオリーに沿わないとすれば、逆に、危機的状況を
招きかねないこと、この二点を筆者の体験で、お示しすることに
あります。

筆者は、8年前に、中小企業としてはやや大きめの資本金2億円強の
製造業X社にシステム部長として入社し、開発が泥沼状態であった
販売システムを悪戦苦闘の末に何とか完成させました。
とは言え、まかり間違えれば倒産しかねない状況でありました。
また、完成したシステムは品質が3年にわたり安定せず、開発を
委託した最大手コンピュータ企業Y社の開発子会社(社員数2千名強)
社長に直接面談して強く善処を申し入れる等のことをしました。

3年の苦闘の末、販売システムが安定した後は、攻めに転じ、
年間売上2億円強のインターネット受注をシステムの強化により
15倍の30億円とする等、売上強化、コスト低減、効率化推進
を行い、今秋予定されている東証二部上場への道筋をつけました。

しかしながら、この8年間は、経営陣や利用部門の理解が得られれば、
より大きな経営的成果を得られたであろうと思うことが少なく
ありません。そこで、今後中小企業のシステム開発に携わる方の
ご参考となるよう、筆者の反省をお話しいたします。

筆者が、X社販売システムの開発に加わったのは、いよいよ実際
の開発であるプログラミング作業に着手するところでした。予定の
2年を大幅に過ぎ、予算の5億円も既に使い果たしていました。
それでも、プログラミング作業にこぎ着けたことから、「山は越えた」
との楽観的な雰囲気が漂っていました。

ところが、プログラムが出来上がってきて、テスト・確認が
始まると、利用部門より、これでは使い物にならない、との声が
あがってきました。その原因は、何をどう作るかの基本設計書の内容
確認と合意・承認が行われていないことにありました。計画が大幅に
遅延しているので、省略したとのことでした。しかし、これは、
マイホーム建築に例えて言うなら、2階にトイレがいるのか、いると
すれば、それは和式か洋式か、ウオッシュレット付きか、等について
の関係者の間で確認し合わないまま、建築してしまったと同じことです。
そして、ウオッシュレット程度であれば、家の完成後でも、何とかなる
かもしれません。ところが、その対応がX社とY社開発子会社の
担当者同士の口頭による独断で行われたため、急遽対処した電気工事が
他にも影響を及ぼし、ドミノ式に完成した箇所の変更が拡大した
ことから、混乱に拍車をかけることとなりました。

そこで、筆者に情報を集中させ、一元的に対応することとし、
100件を超える追加開発要請を70件に絞り込み、立て直しに
取り組みました。しかしながら、そう急にうまくいくわけはありません。
そのため、
筆者は、新システムのスタート日を3回延期しようとしたのですが、
3回目は経営陣の了解を得ることができませんでした。

不承不承で迎えた新システム開始日は、発生した不具合を書いた
模造紙が会議室の周囲の壁一面を覆う事態となりました。2日目を
迎えるのに最低限必要な修正を徹夜で施し、何とか乗り切ることが
出来ました。しかしながら、これには裏があることが、後日判りました。
「システムの品質が未だ不安定につき、3回目も延期すべきだ」
との筆者の言い分に不安を抱いたY社は、本社内に特別チームを作り、
秘密裡に独自にテストを行っていたのです。そのテストで、何と
1000件の不具合を叩き出し修正した由です。この1000件の
不具合が修正されないまま新システム開始日を迎えていたら、
どうなっていたか、それは論を俟たないでしょう。

結局、予算の5億円は10億円に膨らみ、新販売システムの不具合は、
完成後3年にわたり解消せず、X社経営の重しとなりました。

以上の事例より、システムの開発には、以下の2つのセオリーを
守ることが重要であることがお判り頂けようかと存じます。
(1)基本設計書の内容確認と合意・承認を行うこと

(2)文書による情報の一元管理を行うこと。

倉持俊雄

12/09/30 09:13 | カテゴリー: | 投稿者:椎木忠行

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