経営お役立ちコラム
「ダイバーシティ経営」って流行ってる?

前回はダイバーシティについて説明しましたが、今回は、最近ニュースで良く耳にする「ダイバーシティ経営」という用語を取り上げます。
広く一般的に使われているこの「ダイバーシティ経営」の意味は色々な解釈がありますが、ここでは経済産業省の定義「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」注1 をベースに、日本の状況について確認していきます。

◆日本国内企業のダイバーシティ経営の現状

ダイバーシティ経営を行っている日本国内企業は、現在どの位の事業者数なのでしょうか? 残念ながら、経営者へダイレクトに「ダイバーシティ経営」の有無についてヒアリングした結果はみつけることが出来ませんでした。しかし、定義で示している「多様な人材を活かす」、言い換えると「ジェンダー平等の実践」という観点では、政府が掲げた指標「2020年までに女性管理職30%が目標」注2 が参考になりました。令和4年版「男女共同参画白書」によると、日本の2021年女性管理職の割合は13.2%と目標数値に達していません。注3 また帝国データバンクが2021年実施した「女性登用に対する企業の意識調査」では、女性管理職割合は全国平均8.9%、「女性管理職30%以上」を達成した企業は8.6%(全調査対象企業総数は1万992社)という結果でした。注4 こちらも一桁台と目標から程遠い状況です。

ダイバーシティ経営がどの程度進んでいるかを図る他の指標の1つに、世界経済フォーラムが毎年発表している「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」があります。これは、企業数というよりも国家間の比較です。男女間の格差を数値化しランク付けしたもので、経済・教育・政治・健康の各分野のデータから算出され、0が完全不平等、1が完全平等を意味し性別の格差が明確になる指標として近年特に注目されている指標です。今年は7月13日にこの指数が発表されました。日本は、146国中116位という結果でした。分野別では、経済121位、教育1位、健康が63位、政治が139位となっています。
昨年は、156か国中120位でしたので、順位としては上がったものの他国比較と捉えると相対的順位は下がりました。注5

表 1 2022年日本 グローバル・ジェンダー・ギャップ指数

 

 

 

 

 

 

 

 

出典:Global Gender Gap Report 2022 INSIGHT REPORT JULY 2022 p.208から一部抜粋

これらのデータから、日本のダイバーシティ経営の推進状況は遅れているとわかります。

◆ダイバーシティ経営が出来ていないと何が困るのか?

一番の困りごとは、企業が将来発展していくために必要な、新たな人材の確保が今後益々難しくなってくることです。前回のコラムでお伝えした通り、日本の労働力人口は今後減少していきます。
その中で、次の世代の国内外の優れた人材を確保していくには、その世代に向けた労働環境を提供していくことが出来るかが鍵となってきます。海外企業との優秀な人材確保の競争に、今後さらにさらされていくことが予想されます。
そして日本国内の大学では、既に積極的にダイバーシティ経営に取り組んでいます。注6 今は採用される学生側が、ダイバーシティ経営やジェンダー・ギャップについての一定知識を持って入社先を探し企業を選別し、近い将来入社してくるという状況なのです。注7

御社で検討は進めてらっしゃいますか? 入社前と入社後のギャップが激しいと感じた新入社員の退職が続いたことはございませんか?
エン・ジャパン株式会社が、『エン転職』のユーザー12,189名に実施した「ダイバーシティ」に関するアンケート調査2019では、会社がダイバーシティを積極的に取り組んでいると感じている人は14%という低い結果でした。注8 企業で働く従業員の実感としてもダイバーシティを体感出来ている人は少ないようです。

◆「ダイバーシティ経営診断ツール」の活用

今後ダイバーシティ経営を検討している企業や、現在ダイバーシティ経営を行っているが課題があると考えている企業向けに、経済産業省が「ダイバーシティ経営診断ツール」を策定しました。注9
経営者や役員・管理職などが社内で使えるように、手引書も提供されています。注10
このツ―ルを使って、自社のダイバーシティ経営状況を把握し、検討を行うことが可能です。
また、記入したシートを元に専門家窓口などに相談し、今後のダイバーシティ経営を推進する基礎データとして活用することもできます。
ダイバーシティ経営についてご興味のある方は、このツールの内容を一度ご確認されると今後のご参考になるかもしれません。

表 2 【改訂版】ダイバーシティ経営診断ツール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


前回:ダイバーシティって何?


本文中の参考文献についての補足
(注1) 経済産業省HP
(注2) 内閣府男女共同参画局では、男女共同参画社会の実現に向け、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位( (1)議会議員、(2)法人・団体等における課長相当職以上の者、(3)専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者(平成19年男女共同参画会議決定))に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標を掲げている。
(注3) 内閣府男女共同参画局、令和4年版「男女共同参画白書」 122ページ
(注4) 株式会社帝国データバンク、2021年8月16日「特別企画 : 女性登用に対する企業の意識調査(2021 年)
(注5) 世界経済フォーラム、2022年7月13日「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」/Global Gender Gap Report 2022 INSIGHT REPORT JULY 2022
(注6) 大学の事例1:明治大学のダイバーシティ&インクルージョン宣言
ジェンダーセンターは、ダイバーシティ・マネジメントを実践する経営者の講演を開催
事例2:早稲田大学 ダイバーシティ推進室でも情報発信や講演開催など実施
事例3:東京大学男女共同参画室学生の意識調査や研究も盛ん
(注7) 事例1:経済産業省経済産業政策局 経済社会政策室、平成28年11月14日ダイバーシティに関する各種調査 7~8ページ
事例2:リクルートワークス研究所、Global Career Survey:分析報告書「アジアの『働く』を解析する」 16~40ページ他
事例3:PwC、ミレニアル世代の女性:新たな時代の人材 8~9ページ
(注8) エン・ジャパン株式会社、2019年1月9日 1万人が回答!「ダイバーシティ」意識調査
(注9) 経済産業省HP 【改訂版】ダイバーシティ経営診断シート
(注10)経済産業省HP 【改訂版】ダイバーシティ経営診断シートの手引き


<<執筆者>>
仲田 香織(なかだ かおる)

 

 

 

 

2019年診断士試験合格、2020年5月中小企業診断士登録 外資系出版・ITメーカーを経て金融業界が長い。2022年4月から明治大学院経営学研究科に在籍。RPAアソシエイト、フラワーデザイナー、横浜ビジネスエキスパート登録診断士。業務は、①企業経営診断、②海外進出・マーケティング・販路開拓等の相談対応、③各種補助金の申請支援、④経営に影響ある法令改正(割賦販売法・ハラスメント等)・事業変革(ダイバーシティ)・販路開拓(新規市場)関連の研修講師、⑤業界分析Web書籍の執筆などを通じて、企業支援活動を実施している。

Web: https://ameblo.jp/cocokabo/

22/07/31 21:00 | カテゴリー:, , ,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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